pin家政婦はちゃっかりを見た
(佐藤家の日常から21)
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家政婦は見たのでございます

世の中、オリンピックで沸き立っております今日この頃。秋といえばやはりスポーツの秋でございましょう。
佐藤家でもあきお嬢様が、お通いあそばす中学校の運動会で、リレーの選手を務められることとなり、ガイ奥様はじめ皆様が、お嬢様の体調の維持にそれはもう大変なお気の使われようでした。お嬢様もおおいに意気込まれ、ご学友と校庭が薄暮に包まれるまで練習に費やされておりました。
ご夕食では「腹は減っては戦はできぬ」と言わんばかりの食欲をお見せになるのは頼もしい限り。どこかの町の収穫祭で、お茶碗にご飯をぎゅうぎゅう詰め、てんこ盛りにした新米を男衆がかき込む —— という光景をテレビで拝見したことがございます。同じように高々と盛りつけたご飯を豪快にパクつくお嬢様。「あらあら、学友の皆さまにはお見せできませんこと」#(1)と奥様もそのお行儀の悪い姿に苦笑しておられました。
佐藤家はしつけも厳しゅうございます。ご飯もご自分で盛りつけなさることがお約束、世の中の軟弱な名家とは一線を画しております。お嬢様は「お代わりするのが面倒なんだもん」などという軽口で、私どもを笑わしたりもなさいます。お優しい中にもユーモアを忘れないのが、あきお嬢様なのです。
ご夕食の後は、お疲れになった筋肉をマッサージでほぐされます。右足はガイ奥様、左足はゆーたおぼっちゃまの担当です。ガイ奥様は、お嬢様のお疲れを一刻も早く取り去って上げたい —— という一心で、力を込めてマッサージをなさいます。ただ、私がこう申し上げますのも何でございますが、奥様は女性にしてはまれに見る金剛力の持ち主でございいまして、お嬢様が「骨に爪が食い込んで、痛い」と涙ぐむ一幕もございました。#(2)
ゆーたおぼっちゃまは、あきお嬢様のお言いつけには、常日頃から従順でいらっしゃり、丁寧にお嬢様のおみ足を揉みしだいておりました。お嬢様は「ゆーた。力が足りない」と、これまたいつものような叱咤激励ぶり。
そして仕上げは、大奥様おん自らが全体にマッサージ。お嬢様も大奥様にだけは「さすが。最高」と感謝のお言葉を述べられておりました。佐藤家の家訓の一つ「ちゃっかりは恥ずべきことではない」が、脈々と受け継がれておられるのを目の当たりにする光景でございました。

運動会当日。お嬢様のチームは惜しくも2位でございました。ではございますが、昨年の徒競走のゴールですっ転んだあきお嬢様が、無事にバトンを引き継がれたことに、ご家族は大変安堵なさっておられました。ただ1人旦那様だけが「転んでこそあきなのに」と、一瞬やや残念そうな表情をなさったのを私は見逃しませんでした。
スポーツの秋の次は芸術の秋でございます。あきお嬢様が今後いかような活躍をなさるのか、私は楽しみながら待ちとう存じます。

( のりお )

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あずみによる脚註
佐藤家に家政婦なんているはずないってばねえ。
1.) 学友の皆さまにはお見せできませんこと:
ガイ母さんがそんなお上品な言葉づかいしたら、絶対舌噛むぞ。
2.) 涙ぐむ一幕もございました:
あずみくん何いってんのと、軽く肩を叩かれたことがあるが、スゲエ痛かったかも。酔っぱらったガイの隣に座らないってのは、常識かも。