pin焼き芋の天命を全うさせよ
(佐藤家の日常から59)
yoko
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2006年1月、あきちゃんが20歳になった


先日は気仙沼市民会館で成人式があり、中学・高校時代の友人らとも再会して、旧交を温めたらしい。このシリーズを始めたときは、まだ小学高学年だったのだから、早いもんだ。あのズンドコ天然娘#1.も、晴れて大人の仲間入りとは。
レンタルとはいえ、桜色の振り袖姿は馬子にも衣装。母親が全く和服が似合わない#2.ことを考えると、この点だけは母親のDNAを色濃く受け継がなくて良かったとは思う。
そんな大人のあきだが、実は成人式の数日前に風邪を引いた。受験の時もそうだったし、修学旅行でもそうだったが、何かイベントがあるときに限って体調を崩す。決定的にダメになる訳ではないので、運がいいとは言えるが、考えるに、楽しみなことや、緊張することが近づくと、子供が熱を出す(例えば遠足の前の日なんかにね)と同じことかもしれない。
その点ではまだまだ子供なのかも。ただし父親も多分にその傾向があるので、ズンドコ娘の数少ない弱点かもしれんなあ。ただし度胸は母親譲りなので、そこは全く心配はゼロなのだが…。

成人式の2日前。お腹の調子がイマイチで、食欲がないとき。
わが佐藤家のある気仙沼市の高級住宅街に1台のスイートポテト・ケータリング専用車両#3.がやってきた。
「石焼き〜イモー おイモ」。まさに日本の冬の風物詩を軽やかに彩る、独特の口上が、徐々に近づいてきた。
弟のゆーたが、バッと家を飛び出すと、その時家にいたガイやばーちゃん、従兄弟の分をを含め、ほかほかの石焼き芋を買って来た。ガイは、当然、ばーちゃんか、あきの命を受けたゆーたが「合点承知」と、石焼き芋車に馳せ参じたのだと思ったらしい。
ところが、全くのゆーたの独自行動。自らイモ好きを公言しているお姉ちゃんが、風邪で食欲を落としているのを知っていた、ゆーたがお姉ちゃんにプレゼントするために、自腹で購入したという。お年玉をもらったばかりでもあり、全員に石焼き芋を1本ずつ買ったそうだ。
うーむ。倹約家として知られる父親のDNAではとても考えられないことではあるが、優しい心根はほめてやらねばなるまい。これでもう少し、ちゃんと勉強すれば文句はないのだが…(^_^;
あきも、ゆーたの願ってもないプレゼントに感激していた#4.
弟の、温かい心づくしに感謝しつつ、大好物のスイートなポテトを口に運ぼうと、マスクを外しかけた瞬間。ガイの手がスッと伸びてきて、あきの甘い芋をがっちりとつかんだ。
「あんだ、お腹壊してるんだからね。全部食べない方いいよ」
と言うと、石焼き芋を2つに分けた。その大きさは、ガイいわく6対4、あきいわく3対1#5.と、各々見解を異にするが、少ない方をあきに手渡した。
その瞬間。あきの、大きなドングリまなこが、これでもかというほど大きく見開かれた。
明確に「えっ! 私の取り分はたったのそれだけ!」と、その目は語っていた。
しかもカッと見開かれた目は燃えていた。
しかし、すぐに目から力が少しずつ抜けていく。目は、ゆっくりといつもの大きさに戻りながら、それでも大小に分かれた芋を見比べくるくると色が変わったが、冷静さとむなしさを宿しながら最後にはすっと通常に戻った。さらには気持ちを切り替えたのであろう。やはり大好きなスイートポテトを食べられる喜びに、目元がほころんだ。
マスクをしていたので、まさに目の表情だけで、「驚き」「怒り」「戸惑い」「迷い」「悲しみ」「あきらめ」「喜び」を表現したのだから、さすがに食い意地が張っていることに関しては人後に落ちない、あきらしい。
とまあ例によって、実際に見たような書きようだが、これはガイから聞いたこと。まさに「目は口ほどにものを言う」とはこのことであろう。ガイは、その様子をあきに伝えると2人で大笑いしたという。
そして仲良く、芋を食べた。めでたし、めでたし…。
で終わっては、佐藤家の日常にはならない。

大きい方をゲットしたガイは、その時、他に間食でもしたのであろう。珍しく満腹状態だったらしい。そこであろうことか、あきの前で「お母さん。今お腹いっぱいだから」と言い訳して、少し食べ残したらしい。
その時、あきの目の奧には明らかに、怒りにも似た光が秘められていたのを、さすがにガイも察知し、「後でちゃんと食べるから。あんだはお腹本当でないんだから仕方ないちゃ」と、一言多いのもガイらしい。
その後、しばらくして放置されたかわいそうなイモ。ガイがくるんでおいたティッシュを開くと、少し量が少ない。おそらく、あきは目の前にあるイモの誘惑に負けて、「少しだけ」と言い訳しつつ、一口食べたのだろう。
ガイも当然、そう判断した。ただちぎって食べたのか、かぶりついたのかは判断がつかず、あきの風邪が治りかけだったこともあり、また残っていたイモもほんのわずかだったため、再びティッシュにくるみごみ箱を捨てた。
ところが、それを知ったあきは大いに怒ったらしい。「食べ物を粗末してはいけない」「後で食べるとあなたは言いました、違いますか」という2つの正論で母親を土俵際までどんどんと追いつめた。
ガイも「あんだ、かじったかもしれないと思ったの」と反論したが、正論には対抗できずついに、あきの回転のいい突っ張り攻撃に降参。ごみ箱から、ティッシュにくるまれたイモを取り出し、あきの目の前で食べた。
こうして、ゆーたの家族愛により、佐藤家に招き入れられたサツマイモは、食物としての己の与えられた天命を全うすることができた#6.
まあ、もしあきが直接かじったイモを食ったとしても、ガイが風邪ごときに感染するわけはないので、あきちゃんの完勝なのであった。
ということで2006年も、にぎにぎしく佐藤家はスタートした。めでたし、めでたしなのだ!


( のりお )

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あずみによる脚註
焼き芋1本がこういう話になるのが佐藤家なんすねー。お正月なのにねー。
1.) ズンドコ天然:
ズンドコ=ドリフターズのズンドコ節=ドタバタ。天然は天然ボケのこと。ズンドコは氷川きよしのではないです。ズンドコに脚注がいる時代になったのなー。
2.) 母親が全く和服が似合わない:
ガイは、白系ロシア人スパイの血が入った草刈正雄と梨花を足して2で割ったような人だから梨花が似合う程度には和服が似合うと思います。
3.) スイートポテト・ケータリング専用車両:
サツマイモは英語ではスイート・ポテトになるのか? ともかく、いわゆるお菓子のスイート・ポテトではなくて石焼き芋売りの軽トラックのこと。
4.) ゆーたの願ってもないプレゼントに感激していた:
感激といえば。今年の元朝参りでのこと。北野天満宮に行き、おみくじを引いたあきが涙ぐんでいる。てっきり「凶」でも出たかと思い、「どうした?もう一度引いてみる?」と聞くと「大吉」という。彼女いわく。テレビで2006年はあまりいい年ではいみたいな占いがあり、少し気に病んでいたらしい。そこに「万事うまくいく」みたいなハッピーな言葉が満載された「大吉」が出たもんだから、もううれしくて、感激してうれし泣きしたらしい。本当に何でもにぎやかなやつである。 (この項:のりお)
5.) ガイいわく6対4、あきいわく3対1:
6対4=3対2 と3対1 じゃ全然違うよなー。間をとって2対1 くらいにしておこうか。
6.) 佐藤家に招き入れられたサツマイモは、食物としての己の与えられた天命を全うすることができた:
ちょっとまった! それぞれに1本ずつ割り当てられたとしたらガイとあきで1本しか喰ってないので1本余ってるはず。その残りの1本はどうなったのか大きな謎が残ったぞ。




わたしは、焼き芋よりは芋焼酎が美味しいと思います。あと黒豚も。