カルガモと梅干しの梅雨明け 
 (佐藤家の日常から91) 
 
 
 
● 最近のガイ。 
  
年を重ねるごとに天然ぼけ#1.は粛々と進行している。 
ガイは「私は子どもの頃から、こういう人なので、ノー心配ね。逆に、あんだみたく文章書いたり、学校の先生だったり、えーととにかくそういう人こそ、ぼける心配あるんだってがらね。絶対、そうだから。あーやだやだ」と、強弁の倍返しをされた。 
というガイの近況。 
 
初夏のころの話。牧沢#2.にカルガモの親子が出て、道路を横断していたそうだ。テレビでよく見る、あの危なっかしくも、かわいらしい親子の行列だったらしい。 
夕飯のときに、その様子を話すガイ。「そのカルガモの親子がね、5羽か6匹ね、よちよちよ歩いて、お母さんがたまに振り返ってね。子どもは5匹、6羽? いてさ…」と、まるで孫のことを話すばあちゃんのようであった。 
ガイは気付いていているのか、いないのか、「佐藤家の日常」的には、グットタイミングなのだが、話題を語るにはちょっとバッドなタイミングというか、親子丼を食べながら、聞く私。 
 
「ガイ。もしかして『5、6羽』なのか『5、6匹』なのかで迷ったな」 
「えっ、何で分かるの? そうそうどっちだっけ? 」 
「どっちでもいいじゃないか」 
「ええ? 決めてよ」 
「スズメとか、ニワトリの子どもの、ヒヨコとかだと『匹』かなあ? ハトだと『匹』でも「羽」でいいような…。ワシとかタカとか猛禽類だと断然『羽』かなあ」 
「大きさなの? 」 
「うーん。明確には分からん」#3. 
「じゃあ、カルガモの親子なら大小あるから『5匹か6羽』でもいいじゃん」 
「えっ? 」 
「とても深いじゃない。私のこのとっさの迷い」 
「うーん」 
「やったあ!! 」#4. 
「うーん…」 
 
私は、そううなると、親子丼をもう一口、口に運んだのであった。めでたし、めでたし。#5. 
 
梅雨明け後の、快晴のある日の夜。天気予報では明日も「快晴」。 
うんざりするほど長雨が続いた気仙沼地方。梅雨明け間近には1時間で84.5ミリという、観測史上最高の降雨を記録。田中前の社屋一帯が水没し、広範囲に避難勧告が出たりした。 
 
梅雨明け、太陽燦々。ガイはここぞと山のように洗濯をし、そして梅干しの天日干しをした。 
特に、梅干しの天日干しは、したくてもできなかっただけに、ガイとしては「待ちに待った」お天道さまであった。 
初日、終日干した夜。「明日も晴れ」を天気予報で確認したガイは、次の日代休だった私を見て、張り切って命じた。 
 
「お父さん。あしたの朝、 (バイトしているコンビニに出勤するため、家を) 出る前に干していくから、万が一、通り雨とかあったら、絶対に中に出してね」 
「うん? 」 
「だから、中に出して…」 
「えっ?」 
「ああっ!! 間違えた。外に出して、じゃなくて、中に入れてね」 
 
うーむ。断片だけ読むと、熟年夫婦の会話としては、ちょっと誤解されるぞ。#6.にしても、素晴らしい言語感覚で、若い芸人なら「すべらない話」で紹介したいぞ(うそ)。 
  
 ( のりお )  
 
 
 
▲ あずみによる脚註 
日本語の数詞って面倒だけど、それをみんなが普通に感覚的に使い分けているってどう云う構造なんだろう? 不思議だねえ...  
 
1.) 天然ぼけ: 
いわゆるふつうの天然ボケとは違って、なんだかツッコミを跳ね返すみたいな強いものがあるんだよなあ。 
2.) 牧沢: 
のりおくんの自宅のある気仙沼市郊外の高台。むかしはヒバリーヒルズとか云ってたかも。ヒバリですよ。 
3.) 明確には分からん: 
一般的には羽があるのだからひよこは"羽"なんだろうが、鶏のひよこを匹とする感覚はたしかにあるよねえ。不思議だねえ。 
4.) やったあ!! : 
これは勝負に勝ったという雄叫びですね。でも、だれに勝ったんだろう? 日本語の数詞の複雑さに勝ったということなのかな。 
5.) めでたし、めでたし。: 
親子丼もいいけど、そのカルガモを太らせて鴨汁ソバなんかいいよねえ。 
6.) ちょっと誤解されるぞ。: 
何の中に出すのか最初に特定しておかないと、特定のものの中に出すという方向に話がいってしまうのですね。いつのまにか、日本語にそういう方向性ができてきたんだね。エロの力ってスゴいねえ。 
 
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