pinお笑い大地の子
(佐藤家の日常から24)
yoko
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20世紀も大詰めだった昨年暮れ

NHKで名作として名高い日中合作テレビ映画「大地の子」#(1)の再放送#(2)を見た。
中国残留孤児を主人公にした物語で、平成7年の放送時には見逃した。あまのじゃくなので、当時の前宣伝がやたらと「感動巨編」を謳い上げるもんだから、悪い癖で「けっ!」と無視していた。
今回見たのは全くの偶然で、チャンネルを回したら7回シリーズの3回か4回目で、無実の罪で流刑された主人公が、将来結婚する相手と砂嵐の中再会を果たすという場面だった。なかなか印象深いシーンで、気が付いたら物語に引き込まれていた。酒を飲んでいたので、涙もろくもなっていた。養父が日本人孤児の息子をまさに命がけで救おうと、奔走するさまに涙が溢れる。
ガイはこたつで、就寝する前のお決まりの居眠りをしている。既に熟睡モードで、人目がないのに等しく、安心して感涙に身を任せた。そしてついに息子の冤罪が晴れ、親子が北京駅で感動の対面を果たすシーン。涙腺がキュンキュンと蛇口をひねるように緩み始め、まさに迸(ほとばし)らん —— というその瞬間‥‥。目を覚ましたガイが
「これなあに?‥‥ああ分かった『土の子』でしょ」
山崎豊子#(3)原作、構想20年(たぶん)、撮影3年(たぶん)、総製作費5億円(たぶん)日中合作長編テレビドラマ感動巨編「大地の子」(どどーん!)はあっけなく、日本が世界に誇る幻の珍獣「ツチノコ」#(4)(どびゅーん!)へと変身を遂げてしまったのだ。
‥‥想像してほしい。涙の暴走列車「大地の子号」が全力疾走をしようと加速し始めた、まさにその時、踏切に闖入した満艦飾のお笑い爆走トラック「ツチノコ丸」が、どっかーん!と衝突したのだ。「大地の子号」は脱線転覆、爆発炎上。木っ端微塵。メルトダウンしてしまった。
ゴルゴ13の作品の中に、超能力者を倒すため、ゴルゴ13が自己催眠をかけ、気配を消して待機。時計のアラーム音で瞬時に起き、相手をシュートするという作品があった。その訓練を受けた時、担当した医者は「冷え切ったエンジンをいきなりフル回転させるようなものだ」とその危険性を指摘したのが印象的だった。
私が陥った状況も実によく似ている。私の被った精神的な打撃は計り知れない。ガイと付き合いのない普通人だったらたぶん精神に異常を来しているに違いない。私とて、その後最終回まで感動シーンごとに、頭の片隅に鎌首をもたげるツチノコの姿が浮かんでしまい、涙と笑いにくれるありさまだった。大体、鎌首しかないからツチノコなんであって、ツチノコが鎌首をもたげたら単なる直立不動じゃないか!という反論も同時に頭の中では展開し、もう「大地の子」どころではないのである。
こうやって20世紀もガイの天然ボケの洗礼を受け、めでたく暮れたのであった。21世紀はどうなる?

( のりお )

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あずみによる脚註
のりおくん、そらあホントに気の毒な経験をしたね。その、素晴らしいタイミングの良さは、天性以外の何者でもないね。長嶋みたいなもんかな。
1.) 「大地の子」:
山崎豊子作、1994年文藝春秋社刊。日中戦争末期に置き去られた、いわゆる日本人孤児の問題を中心に、親と子、祖国、現代中国と日本の問題に赤裸々に迫った、ハードカバー3巻におよぶ超大作。現在は文春文庫全4巻で読める。
2.) 再放送:
NHKBSで、去年(2000年)の7月に再放送され好評で、さらに年末に再放送になった。
3.) 山崎豊子:
やまさきとよこ:1924年大阪生まれ。代表作『花のれん』『白い巨塔』『不毛地帯』『大地の子』など、ベストセラー多数。社会の暗部をえぐり出すようなテーマが多いが、読み手を引きずり込むその描写力は群を抜いている。
4.) 珍獣「ツチノコ」:
「槌の子」、当然「土の子」ではない。ビール瓶のように短い体型の蛇らしいが詳細は不明。「ノヅチ:野槌」とも云い、古事記に名前が出てくると云われている幻の珍獣。岐阜県加茂郡東白川村では多く目撃情報があるし、兵庫県千種町(ふるさと振興課:0790-76-2210)では、生きたツチノコに2億円の賞金を掛けている。ガイが本気を出したら、捕まえるんじゃないのか?




ガイと長嶋に共通点があったとはな。