pin佐藤家の発掘問題
(佐藤家の日常から23)
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最近のあき

こんど高校受験のあきは、ここ2ヶ月ほど、自分の部屋で勉強する時間が徐々に少なくなってきていた。2階の茶の間、1階の茶の間、台所、風呂場トイレ、ゆーたの部屋とまあ、本人は「気分転換」などと言っているが、玄関以外はすべてあきの勉強部屋と化していた。#(1)
しかも、このジプシー受験生には、はなはだ迷惑なことがあった。
とにかく部屋が汚くなるのだ。膨大な消しゴムのかす(不得意な数学の勉強の後が一番ひどい)、「勉強の合間におやつを食べる」のか、はたまた「おやつを食べる合間に勉強する」のか、膨大なスナック菓子類の食べカスが散乱。
ついにこの間は、あの温厚な弟から「ゆーたの部屋への出入り禁止令」を発令されてしまった。#(2)

小春日和に恵まれた先日の日曜日のこと

それもこれも、あきの部屋が汚いからに違いないと確信していたガイは、強制掃除に踏み切ったのである。
本人は、友達が泊まりに来た夏休みに「部屋の隅々まで掃除した」と言い張っていたが、埃の多さなどからかねがねガイは「掃除は捏造(ねつぞう)に違いない」と睨んでいた。 その後、数回にわたる勧告も無視されたため、ついに強行突入となった。

突入後30秒で、机の下から化石状態となった、干からびた蛾の死体を発見。埃の積もり具合から見て、およそ3ヶ月前の夏休み中期以前のものと推定#(3)された。
さらに机の上からは「お父さん、勉強が捗るようなテンポのいい曲なあい?」と言って、おれからせしめたブラーの傑作アルバム「パークライフ」のCDが、教科書と参考書の堆積層(たいせきそう)の合間から、よれよれ状態で発掘された。あのCDを貸したのは確か新緑の頃‥‥。半年前となる。埃にまみれ、実に哀れであった。
こうした数々の事実により、あきが夏休みに部屋を掃除した —— という事実は真っ赤な嘘。捏造であることが判明した。
しかも「ついでに」とパイプ式ベッドの下をのぞくと、そこにはベットを購入した1年7ヶ月前から静かに降り積もった埃と、身を横たえたキャンディーの紙包み、コミック本、テスト用紙など、去年のものが続々と発見されたのである。
つまり大晦日の大掃除も捏造である可能性が出てきたのだ。しかし本人は‥‥。
「すごーい。あっ。これ懐かしー」
と全く他人事である。
「魔が差しました」とか「言ってはいけない嘘をついてしまったということです」などという反省の弁も、うなだれる様子も全くないのであった。

しかし中3になって、こんなに埃まみれの部屋に住んでいても気にならないところが凄い。原人並みである。#(4)
しかもガイにほとんどの掃除をやらせて、自分は優雅に「パッヘルベルのカノン」などを口ずさんでいる。バツが悪いと、却って陽気に振る舞うという場合があるが、そうでもなさそうだし、しかも何でバロック音楽なんだろ?
必死の形相で掃除するガイと、楽しそうな娘の顔を交互に見る。
どっちも原人に見えてきた。

( のりお )

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あずみによる脚註
あきお姉ちゃんの弱点は、掃除にあったのか。まあ、そっちはあきらめて、料理を得意種目にすればいいよな。
1.) 玄関以外はすべてあきの勉強部屋と化していた:
東京に遊びに行くとき、車の中でもやってたしな。
2.) ゆーたの部屋への出入り禁止令:
日和見なゆーたがそこまで思い切るとは、よっぽどのことなんだな。もっとも、姉に自分の部屋で勉強されたら、それだけで大いに迷惑だろうけど。
3.) 夏休み中期以前のものと推定:
ちょうどこのゴミ発掘の頃、宮城県築館町の上高森遺跡での旧石器時代石器捏造の問題が、マスコミをにぎわしていた。
4.) 原人並みである:
おれも、かなりのゴミに埋もれてもそこそこ平気である。あきとは、良い友達になれそうである。でも、あきの亭主は、御免被りたいザンス。