pinナンパなおとしごろ
(佐藤家の日常から43)
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あきちゃんも16才のおとしごろ


世の中には「たで食う虫も好き好き」#1.という名言があるように、あきをかわいいと思う異性が存在するらしい。まあ私の娘なので、美少女なのは仕方がない。うざったい男どもの視線に悩まされるのは、すべてお父さんのせいだ。恨むなら、お父さんを恨みなさい —— と父は涙するのである。
ところがだ。最近、どうも分をわきまえないやつが増えてきた。何と父である私の許可も得ずに、なれなれしくあきに声をかけてくるバカヤロウもいるというのだ。どこのどいつだ!このヤロ!表に出ろ!
この間もジャスコで買い物していたら、ヤンキー風の兄ちゃんに声をかけられたというではないか。学年は一つ上ということだから17か18か?あきは根がまじめなので、そんなチャラけたヤロウのナンパは一蹴したという。偉い!聡明(父親DNA)で、かわいい(父親DNA)天然(母親DNA)ドスコイ(母親DNA)娘を彼女にしようなんてのは百年早い!あきには、その調子で悪い虫を次々と駆除してほしいもんだ。

「みなとまつりの日もナンパされちゃったしさあ。あきちゃん、スゴイ!困った、困った」
何かうれしそうだな、あき!だめだぞ、そんな油断を見せちゃ。
「ふーん。みなとまつりなら、お母さんもナンパされたなあ。高校生のときに」
ガイはどうして、こうもあきにライバル心をむき出しにするんだろ?のべつ幕なしの負けず嫌いは永遠に不滅なのだ。娘だろうが、息子だろうが、たぶん相手がターミネーターだろうが、北朝鮮のあのお方であろうとも例外はないような気がする。
「うそぉ。どうせカッコいい人じゃないよねぇ」
あっ!あきちゃんも、またそんな火に油を注ぐような暴言をしちゃ‥‥。
「何いってんの。結構カッコいい人だったよ。それに周りには美由紀#2.とか、かわいい子もいたのに、私に声をかけてきたの。やっぱりねえ。もてるのはつらいよねぇ」
と、やはり暴走するガイ。
「ふーん。相手は高校生?」
「ううん。もっと大人の人だよ。たこ焼き売っていたの」
「なあんだ!商売じゃん!」
「違うってば。あくまでも私がかわいいから、声をかけてきたの。いやー、みんなの手前、大っぴらに喜べないし、奥ゆかしい性格だから、断ったの」
「なああああんだ。商売じゃん!」
「お母さん、もてたからなあ」
「商売ならねえ。だれだってほめるじゃん」
「ナンパばっかりされていたからなあ」
「ショウバイ、ショウバイ」
「ちっ。美由紀たちには悪いことしたなあ」
「ショーバイ、ショーバイ‥‥」
と、二人の会話は限りなくパラレルな展開になるのはいつものことである。レフェリーとしては「10対10のイーブン。ドロー」と両者をリングから下ろさないといけない。

「ところで、あき。ほかにナンパなんかされてないだろうな」
と静かに切り出す父。
「困ったことがあるの」
な、何ぃ?まさか「つきあってほしい」とつきまとわれていたりしているのか?と疑心暗鬼になる父。
「なんかさ。気仙沼にインドネシアの人いるじゃない。前にも声かけられたし、この間も違うインドネシアの人に声かけられたの」
うーむ。インドネシアの人たちは、気仙沼に遠洋漁業の技術を学びに来ている研修生の人たちだろう。確かに、こんがり小麦色に日焼けしたら、あきはバリ島でガムラン音楽#3.とともに踊っている南国の美少女に似ているかもしれない。帝政ロシア人の風貌を持つ母親から、なんで正反対のバリ島娘が生まれたんだろ?不思議だ。ベトナムの人からネーティブと間違われた友人#4.もいるが、その子どもは純日本人だしなあ。
それにしても。テキ屋の兄ちゃんにナンパされる母親と、インドネシア人にナンパされる娘。どっちにしても、とても変な親娘には違いない。あきちゃん!国際結婚なんて、絶対お父さまは許しませんからね!

( のりお )

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あずみによる脚註
うーん、鉛筆の削りカスを頭からかぶってたあのあきちゃんも、そんなお年頃なのだねえ。なんだか感慨深い。そんで、あともう少しで大学進学。気仙沼を離れるんだろうけど、そのあたりに、また強烈なネタがありそうだねえ。
1.) 「たで食う虫も好き好き」:
蓼(たで)は、刺身のつまなどすることもある食用の植物。苦辛いことから、ひとの好みはさまざまであるというような意味に使われる。
2.) 美由紀:
ガイおかあさんの同級生。高校生のときは、そらあ可愛かったとも。
3.) バリ島でガムラン音楽:
全然関係ないけど、こないだTVでワハハ本舗のネタ、ガチョーン・ケチャってのを見た。ケチャの“ンチャチャチャ”ってのを“ガチョーン”でやるの。みんなでちゃんと輪になって座って、ガチョーン以外はすっかりケチャになっててあれは傑作だった。ほんとに感心した。
4.) ベトナムの人からネーティブと間違われた友人:
さすがに、インドネシア人からは間違われないのはめでたい。




のりおくんは、相手がどんな男でも、気に入らないんだろうな。