pin気仙沼の食を履修せよ
(佐藤家の日常から53)
yoko
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あきを東京に送りだすとき考えた


幼少のころから、旺盛な食欲をいかんなく発揮し、スナップ写真の多くで、おいしそうな笑顔を見せていた生まれながらの「食いしん坊」あき。多くの子どもが初めて発する言葉に「ママ」と「マンマ」があるとされるが、ついでにきちんとした発音で「せんべい」と言っていたあき。幼稚園の参観日。好きな食べ物を先生に聞かれ、他の園児が「ケーキ」「イチゴ」などとかわいく答える中、「がんづき」#1. と渋い答えを披露した、あき。
そんな食い意地張り娘を、全国初のスローフード宣言都市・気仙沼から花の東京へ送り出すとあっては、やはり気仙沼の豊かな食を経験させねばなるまいと、佐藤家では「気仙沼の食履修コース」を急遽(きょ)設けた。上京するまでの一カ月間、特訓を続けた。というか、みんなで食べまくっただけなんだけど…。

家ではカツオやサンマ、アワビ、メカブなど豊富な海の幸はもとより、ガイの実家が農家なので農薬を極力使わない米や野菜など、それこそスローフードの基本項目は既にきちんと履修している。オヤジはインスタントラーメンをこよなく愛する昭和30年代生まれの添加物まみれであるのに対して、考えてみればずーっと健全な食生活を送ってきたことになる。
さて今回特別コースとして設定したのが、「フカヒレラーメン」「マグロ丼」「畠山政則さんのカキ」「福よしの焼き魚」。

「フカヒレラーメン」は今売り出し中の「気仙沼らぁめん」#2.がデビュー前だったので、中華高橋水産の「ふかひれラーメン」#3.を家で作って食べた。姿煮がどーんと乗った豪華版ではないが、十分コラーゲンたっぷりのトロトロ感じが堪能できる。2000円以上する新京本郷店の本格フカヒレラーメンは、そのうち自分の金で食ってね。
「マグロ丼」は、魚市場前にある海鮮市場「海の市」にある「北かつまぐろ屋」#4.の三色丼を食べた。気仙沼の遠洋マグロはえ縄船団を束ねる北かつの直営店なので、意地とプライドにかけてもまずいものはだせない。三色丼は一番人気で、メバチマグロの赤身#5.、ネギトロ、そしてビンチョウマグロ#6.のトロがどーんと乗っている。ピンク色も美しく、あきも「これおいしい!」とよだれを垂らさんばかりに、というかよだれはダラダラ垂れていたに違いない。ガバチョとかっこんでいた。
「畠山さんのカキ」#7.は、絶品である。唐桑町の「漁火パーク」で売っている一袋(500円)あれば、至福のひとときを過ごせる。佐藤家で食わず嫌い王のゆーたも「これなら食べられるし、おいしい」と大絶賛(笑)していた。
さて最後は「福よし」の焼き魚#8.。もちろんキチジである。気仙沼人はキチジと聞くと目の色が変わる#9.。これを炭火の遠火でじっくりと焼く。串の打ち方、ムラのない焼き方、その加減は絶妙。火のマジックといえる。あきちゃんも原始人のように魚にむしゃぶりついていた。それと、今からが旬のホタテ#10.の精巣を軍艦巻きにした寿司が絶品であった。目を閉じて食べるとウニなのだ。ウニの濃厚な磯臭さがないのが、私には物足りないが、生臭さに弱いあきやゆーたは「ウニよりおいしい」。

ということで佐藤家の「気仙沼グルメ講座」を優秀な成績で履修したあきちゃん。今は東京であちこちの「安くてうまい店」を開拓しているらしい。アルバイトはマクドナルドの店員だけどね(笑)こっちはこっちで、あきのスペシャル・スマイルに磨きをかけてほしいぞ。
次はあきちゃんの東京食い倒れ日記だ! でも太っちゃだめよ。

( のりお )

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あずみによる脚註
気仙沼に住んでるとあんまり気づかないけど、美味しい店はたしかにあるんだよね。角度を変えるとスゴーク安くて美味しい店とか近所にあるもん(角度を変えないとあれだけど)。
1.) 「がんづき」:
基本的には小麦粉と砂糖を煉って蒸して作る素朴なお菓子、というかおやつ。岩手県気仙地方、磐井郡、宮城県本吉郡などでよく作られている。白砂糖の白いもの、黒糖を使う茶色いものがありごまやクルミなどが入る。ういろうのようなねっとりしたタイプと、蒸パンのようなふわふわしたものなど、地方や作る個人によっても様々なバリエーションがあり一概にはまとめられない。ともかく、素朴で甘く美味しいの。
2.) 「気仙沼らぁめん」:
気仙沼のラーメン店有志が、東京葛西の人気店「ちばきや」(店主が気仙沼出身)の指導を受け、試行錯誤の上作り上げたラーメン。基本的にはサンマのつみれとサンマの香油が香ばしい醤油味と、ふかひれ姿煮の入った塩味。さらに店独特の工夫もありいろいろな味を楽しむことが出来る
3.) 中華高橋水産の「ふかひれラーメン」
常温保存の生ラーメン。そんなに旨くはないだろうと思いつつ喰ってみたら、意外に美味しいのでびっくり。スープは海鮮を凝縮した感じで、濃厚で旨いが脂っぽくはない。それを細かいけど比較的上質のふかひれが上手に吸い込んでいる。すこしちじれ系細麺は、スープの強さに負けていない。一箱二食入り1050円。これ以外の気仙沼産ふかひれラーメン(おみやげ系)は、推薦しません。
4.) 「北かつまぐろ屋」:
北かつ=宮城県北部鰹鮪漁業協同組合の直営店。気仙沼港はマグロ船籍日本一、ということでマグロ世界をリードするかなり有力な組合。マグロ漁業にかんする山積する問題に取組んでいる。まぐろ屋の一番人気は三色丼かもしれないが、おれならみなみまぐろ丼を喰いたい。ミナミマグロはクロマグロよりはちょっと小さいが、脂の乗りも良くてとても旨い。その、トロをふんだんに使っているのに安い(2,000円)。三色丼は1000円。その他では、ぜひメカジキも喰いたいですね。北かつまぐろ屋のホームページは、マグロについてとてもよくまとめられているので、ぜひご覧下さい。
5.) メバチマグロの赤身:
赤身好きのわたしは、バチのほうがさっぱりしていくらでも喰えるからおいしいと思う。もっとも、本当に上質の本マグロの赤身はあんまり喰ったことないからなあ。ともかく気仙沼のはえ縄船は、これをよく獲ります。
6.) ビンチョウマグロのトロ:
ビン長、ビンナガとも云う。カツオの一本釣でいっしょに釣れたりするちょっと小型のマグロで、身が少し白っぽい。最近は回転寿司でもビントロとしてお馴染になってきたが、気仙沼人は昔からこれを良く喰ってます。赤身はサッパリ系、トロは濃厚で溶けるような触感と旨み。
7.) 「畠山さんのカキ」:
畠山政則さんの牡蠣は、一度食べてみないとその旨さはわからないだろう。牡蠣の雑味、えぐみをまったくとりのぞき、旨みだけを凝縮したいわば牡蠣の大吟醸。牡蠣の嫌いな人でも喰えるし、好きな人は延々喰い続けられる。基本的には気仙沼湾で養殖するのだが、その過程で牡蠣イカダを外洋にもっていくなど、リスクの高い育成方法をしているらしい。ちなみに「森は海の恋人」の牡蠣漁師畠山重篤さんとは別人。重篤さんの牡蠣も当然旨いです。
8.) 「福よし」の焼き魚:
知る人ぞ知る有名店。気仙沼人でもその凄さがさっぱり分からない人が多いのも凄い。真夏でも囲炉裏で炭火をカンカンに熾し、串に刺した魚を火の回りに立て、遠火の強火で絶妙に焼上げる。特に有名なのはキチジで、北日本のキチジは気仙沼に集まり、その中でも美味しいキチジは福よしにやって来る。もちろん、季節の魚の刺身を喰っても旨いです。「福よし」などに感動した人のご意見。
9.) 気仙沼人はキチジと聞くと目の色が変わる:
キチジ=キンキ、吉次とも書く。深い海に住む赤肌白身の魚で、脂がのっていて旨い。気仙沼では、結婚式のお膳に鯛が出ると、なんだ鯛かと云う。キチジじゃないといけないらしい。うちでもキチジだと争って喰ってます。一般的には煮付けて食べることが多い。
10.) 今からが旬のホタテ:
のりおくんが、これを書いたのは5月。一般に三陸では、6月から7月がホタテの旬になる。5月6月は海にプランクトンが豊富で身が太るみたい。




来年になったら漁火パークに畠山さんの牡蠣を買いに行こう。