pinゆーただっていい国つくろうと思ってるだろ
(佐藤家の日常から54)
yoko
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ゆーたも受験生になった


受験生・ゆーたの野郎が歴史(というか、すべてというか…笑)が苦手なので、トイレに「歴史年表」を張り、「1日に1個ずつ、覚えるように」と厳命した#1. 。そこで、おれもゆーたと一緒に覚えていく約束を交わした。
年表には、語呂合わせの技まで書いていないので、専用の暗記ブック#2. をトイレに備え付けた。

人間が一番記憶しにくいのが、アトランダムな数字なんだそうだ。痴呆症の程度とか、まあ老化の進み具合なんかの簡単なテストに、よく3ケタとか5ケタの数字を暗記するとうのがある。学生時代、数学が得意だった私だが、記憶力は悪く、こういった暗記は苦手だ。電話番号なんか104で3回も聞き直したことがあった。最近はメモしないと、特に数字はすぐに記憶が曖昧になっていく。
というわけだで、記憶力にやや自信のない父と、自信はあるが実力の伴わない母・ガイの遺伝子を受け継いでいるのだから、きちんとフォローしてやらねねば「ネバー・合格はフォーエバー、ネバー、ネバー、ぜってぃーねぇってばー」という親心なのだ。

まあというわけで(パート2)、あき姉ちゃん伝統の「トイレで受験勉強」#3. を弟も引き継いだ形で、語呂合わせで「道長は十色の関白衣装で着飾り」で1016年とか覚えている(笑)
今は江戸時代に入った。「農民は広くよく聞け慶安の御触書」だから1649年。とここで我らが世代はふと思い出す。「イロヨク染まる慶安の御触書」じゃなかったっけ? そうだ。しかし、この語呂合わせブック、何とかその物事の内容を反映させようと努力している。確かに「農民は広く…」の方が、誰に対して幕府が御触書を出したかが分かる。「大名の異論以後だめ武家諸法度」なんかもよくできている。
最近はあまり詳しく年代、年号は試験に出ないそうだが、とにかくゆーたの頭の中に歴史の流れをきちんとつくることと、基本中の基本「暗記は根気」を「暗記は反復」「暗記は工夫」を叩き込むためにあえてやっている。覚えて、忘れそうになって、覚えて#4. 。一応、記憶に定着した時点で、一度「寝かして』、ようやく体が覚え込む。味噌作りみたいなもんだ。つくるのは暗記のための脳みそだけど(笑)
そうやって四苦八苦しているゆーた。1週間に1度は私が、さぼっていないか試験をする。一問一答だ。試験の前には、ガイとともにもう一度縄文時代までさかのぼって総復習をする。まあ今までのところ7割、調子いいときは8割の正答率か? 徐々に上がってきた。

ある日のチェックで。
「奈良時代に作られた日本の歴史を書いた書物は」
「えと、えーと日本ショキ、えーと漢字はえと『書記』?」
「漢字でちゃんと書けるようにしておけよ。もう一つは?」
「えっ? ああ!…」
「この間も覚えてなかったぞ」
「……? あれ…」
「古事記!」
「あっ!」
「まだ覚えてねーのか?」
「…。覚えたんだけど、忘れた」
「それは覚えたって言わないんだよ! 今度言い訳したら坊主にさせるからな!」#5.
「う、うん。…分かった…」

「じゃあ、次。日本最古の歌集は」
「ああ、それね。うん。マンヨーシュー。万に葉っぱだから万葉集」
「よし。やっと覚えたな」
「うん」
「代表的な歌人は」
「大伴家持。えっ? 字ちゃんと書ける。イエモチじゃなくてヤカモチ」
「よし。後は?」
「あっ!……。さっき覚えたんだ。えーと、あれ? えーと?」
「実は山上億良という人もいるんだけど、もっと有名な人いるだろ」
「うん。さっき覚えたんだけど…」
「ほら、ゆーた。さっきお母さんと一緒に書いたでしょ」
「あっ! 柿の、えーと柿の種、柿の種ヒトマロ」
「柿の種? バカヤロ! 柿本だろ!」
「あ、そうそう。柿…本…人…えと、そうだ『麻呂』だ」
「よし。今日はここまで。もっと真剣にやれよ」
「分かった」
と父母の居間から自室へと引き上げるゆーた。

そこまで何とか我慢していたが「柿の種」とゆーたが、ガイ直伝の眉間の縦ジワを深く刻みながら必死で答えたその姿を思い出し、もう堪えることはできなかった。声を押し殺して、ガイと2人で数分間。腹が痛くなるほど笑った。厳しく叱った手前、声を上げて笑うわけにはいかず、とても苦しかった。
歴史上の大歌人柿本人麻呂が、柿の種になってしまった。しかもゆーたの頭の中にあったのは当然、あの「柿の種・カキノタネ」に相違ないのだ。柿本を覚えるために、いわば想起する手がかりとしていたのだろう。
それを考え、必死にまじめに覚え、答えようとして、見事にこけたのだから、これも天性と言わざるをえない。あき・お姉ちゃんにはかなわないかもしれないが、そこにはしっかと「天然ボケ」の系譜を感じ取った父であった。
ガイのツチノコ発言#6. もそうだが、天然ボケというのは、その見事なタイミングによって、破壊力は数百倍にもなる。そのいい実例として佐藤家の歴史年表に深く、ふかーく刻み込まれたのであった。

「柿の種喰えば 腹がいたくなるなり法隆寺」#7. 。かなり字余り。2004年8月。

( のりお )

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あずみによる脚註
入試は日本史で受けたし、歴史物は結構好きだし、時代小説は山ほど読んでるけど、歴史の年表なんてさっぱり覚えていないぞ。っつうかあれって意味不明だもん。
1.) 「1日に1個ずつ、覚えるように」と厳命した:
子どもが歴史嫌いになる一番の原因は、そうやって無理やり意味のない年号を覚えさせられることだって知ってるか? そんなのより、石ノ森版「まんが日本の歴史」(もう何巻あるのかさっぱり分からないが正史だけで中公文庫版で60巻)。ともかくあんた、これを精読したらもう日本史なんて勉強する必要ないよ。西暦で年号覚えるなんてもう無駄無駄無意味。まだ元号で覚えたほうが意味あるかも。
2.) 専用の暗記ブック:
って、ようは語呂合せがいっぱい書いてあるアンチョコみたいなもんか? うはあ、そんなつまらないもの読んでたらウンコもでないよ。ゆーたかわいそう。トイレの中なら面白い歴史小説でも読んだほうがよっぽど出がいいだろうに。そんで、信長の野望とか天下統一とか、そういうシミュレーションゲームでもやれば、たのしく歴史通(つうかヲタク?)になれるのに。
3.) 「トイレで受験勉強」:
詳しくは、吉本おかんの敗北 をどうぞ。あき姉ちゃんはその他にも、いろんなところで勉強してたけどね。
4.) 覚えて、忘れそうになって、覚えて:
天の邪鬼内田百閒も、覚えることが重要なんじゃなくて忘れることが大切だって云ってるよ。
5.) 「坊主にさせるからな!」:
ゆーたは坊主頭になることを何より怖れているらしく、それをいいことにこの父は、この心優しい素直な息子を脅すときよく使っているらしい。なんて非道な父親だろう。
6.) ガイのツチノコ発言:
詳細は、大地の子を読んでね。
7.) 「柿の種喰えば 腹がいたくなるなり法隆寺」:
正岡子規の代表的な句「柿食えば 鐘が鳴るなり 法隆寺」の下手なパロディ。ところでわたしは、最古の歌集だから「万葉集」が大切ってことだけではなくて、日本文化の根幹を作ってきたものは古今新古今紀貫之偉いということだったということをもっと教えて欲しいとおもいますだ。




歴史小説は山ほど読んで、天下統一を死ぬ程やりこんでも、歴史はさっぱりわかってないけどね。
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