pin炎の女子大生に進化せよ
(佐藤家の日常から52)
yoko
yoko


あきは無事、東京の私大に現役合格した。#1.


あきは今、入学と引越しの準備をしている。いよいよ4月からは花の女子大生となるわけだ。まあ志望校なので、親としてはほっとひと安心している。
今回、入学する大学の合格発表の日は2月上旬だった。その前日には、初めての発表があり、武運つたなく不合格になっていた。それだけに、家族全員が「今回こそ」と祈りを込めていた。

その前に現在の複雑な受験制度について、ちょっと説明したい。
センター試験というのがある。これは国公立大だけではなく、私大も参加できる。私大の場合は、センター試験の点数のみで合格できるところもある。対象となる科目や配点などは、各大学によって、それこそ千差万別なのだが、一般入試(つまりは通常の学校ごとの入試)に先立って合格をゲットできるというメリットがあり、国公立受験生の滑り止めとして、またかなりの私大志望者がチャレンジする。
今回から国公立大が5教科7科目と受験科目が増えたこともあり、センター入試で私大合格を勝ち取っておこうという受験生がどっと増えた。大抵の私大は、一般入試での募集を100とすると、センター入試10と少ない。センター入試は便利だが、狭き門でもある。

そのセンター入試であきは、国語、英語、政治経済を選択。運良く8割をゲットした。もちろん自己採点なので若干の上下があろうが、まあよくがんばったと、親ばかながらほめてやりたい。しかしそれでも滑り止め校は別として、他の志望校は、ギリギリだったりどうにか引っかかるかも —— という感じで、発表はドキドキもんだった。そして最初の志望校は不合格。「いやーん。今年は受験生が倍近くになってるしー、惜しかったー」と落胆していた。表面上は「ドンマイ」と明るいあきであったが、やはり不安は隠せない。
そこで迎えた、今回入学することになったS大の発表日。
その朝ばーさんは、仏壇のじーさんに合格祈願をした後、天気が良かったので庭に洗濯物を干した。そのときであった。ばーさんは、あきのくつ下をポトッと落としてしまった。一気に狼狽するばーさん。慌てて拾い上げたが、不吉な予感に包まれたという。そりゃそうだ。しかし、いつまでも気にしていてはいられないと気を取り直して、洗濯物を干していった。
多分、傍目から見てもそわそわしていたんだろうな。もう少しで干し終えるところまできた、そのとき、ばーさんはあろうことか、今度はあきのパンツを落としてしまった。#2.
オウ・マイ・ガー! という英語をばーさんが知っているかは分からないが、このときのばーさんの気持ちは察して余りある。小心者の血筋を同じくする私は、痛いほど分かるぞ。しばし呆然としたに違いない。しかもその日、合格発表があるのはS大と滑り止めで受験したS女子大の2校! しかもS大は2学部を受けていたのだから。
なのに、よりによってあきのくつ下とパンツを落とすとは! 不安が小さなばーさんの胸いっぱいに広がったのであろう。さすがは佐藤家のメンバーであるばーさんだ。ここぞというときに、なかなかできない小技である。
洗濯物を落として3時間後、昼食時間に家に戻った私は、まず滑り止めのS女子大の合格をインターネットで確認した。このときの、ばーさんの心底安堵した顔は忘れられない。なんせあきのことだ、まあ自己採点に大きな違いはないとは思うが、受験番号を書いてなければ、すべてがパーである。また、問1の答えを問2の答えの欄にマークしても当然零点だ。ガイの娘であるあきだもの、ここ一番でとんでもないドジをやらかした可能性はある。#3.
それだけにS女子大に合格したということは、少なくとも受験番号もきちんと書いたし、自己採点も大きくは間違っていないということだからだ。これで、自己採点による大手予備校の合否予測では十分合格圏に到達していたS大の2つの学部の合格も見えてきたからだ。
そして午後4時の発表。しかし、あきにやり方を教えてきたというのに、なぜかiBook(アップルのパソコン)では名簿を開けないという。そこで会社のパソコンでやってみたが、一斉にアクセスしているのだろう、なかなか開けない。
10分以上かかった。その間、ばーさんはまた青い顔をしていたらしい。やっと名簿を確認。その中にあきの受験番号を見つけた。すぐに家に電話。さらに名簿を印刷して、ファクスした#4.。ようやく合格を実感したのだろう、あきの声も弾んでいた。電話の奥からは「よかったあ。パンツ落としたとき私は、もう驚いて…」というばーさんの興奮した声も聞こえてきた。
こうしてパンツとくつ下は落ちたが、あきちゃんは見事、志望校に合格できた。まあいつもの佐藤家の空騒ぎであった。
その後は、実力をオーバーするW大などを一般受験したが、こちらは残念ながら受かるところまではいかなかった。今回受験した東京では、叔父のアパートを占拠。気仙沼の佐藤家で行った迷惑なジプシー勉強#5.を展開したのは言うまでもない。いつも、いつもすまんぞ
W大の受験にはガイも上京、下見にも仲良く行ったが、その帰りには電車の中で仲良く2人で居眠り。熟睡して乗り換える駅を乗り越すという、いつもの、すっとこどっこい母娘ぶりを遺憾なく発揮したらしい。乗り越しに気づいたあきは、ガイに対して「なんでお母さんまで居眠りするの」となじったらしい。どこでもこの母娘はドンパチを始めるのであるな。あきが東京に行っちゃうと、その回数が少なくなるのがちょっと残念だけど(笑)
さてあきの進学する大学。あの“えなりかずき”と同じところだ#6.。最後にきちんとお笑いのオチをつけるのが、あきちゃんらしい。さて炎の受験生は終わった。次は炎の女子大生だ! ファイト!

( のりお )

yoko
yoko

あずみによる脚註
おれなんかは、パンツを落したら拾えばいいと思うのだが、一般的にはそうじゃないのだな。
1.) あきは無事、東京の私大に現役合格した。:
大学受験では、気仙沼市など地方の小都市の高校生はかなりハンデがあるので、現役でスパッと入ったあきちゃんは、思ってたよりもかなり優秀だったのね。
2.) 今度はあきのパンツを落としてしまった。:
こういうところにそんなことを書いて、どっかの変態の目にとまったら怖いかもと思ったが、でもあきちゃん東京にいくからまあいいか。
3.) ガイの娘であるあきだもの、ここ一番でとんでもないドジをやらかした可能性はある。:
おまけに、「ここ一番」というのにすごーく弱いのりおくんの娘だもんね。
4.) さらに名簿を印刷して、ファクスした:
このへんにも、受験生家族の実感と小心者の遺伝子が見えるかも。
5.) ジプシー勉強:
そのジプシーぶりは、あきの巣穴▼あきの受験勉強大作戦▼ちゃっかりあきの英会話で東京ツアー▼佐藤家の発掘問題▼を参照してね。
6.) あの“えなりかずき”と同じところだ:
どうやら学部もおなじらしく、のりおくんはあきちゃんがえなりにナンパされないかと心配してる。そうなったら、ここでもネタができて面白いよね。




ともかく、あきちゃんは学生生活を楽しんで欲しいもんだ。