pinナタの連打的親心
(佐藤家の日常から56)
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昨年の秋の話


我が愛車ウィル・サイファ#1.には、メールが転送されるようになっている。メールを読み上げる機能もある。ある日幾分ロボット的な音声が、いつものようにメールを読み上げると
「……ワラッテイワレタヨ ゲタゲタ サンショクタベテルシサァ ゲタゲタ トユーカビヨウニモサンショクガベスト ゲタゲタ ワタシモタベルノダイスキダシ ゲタゲタ……」
と淡々とゲタゲタご丁寧に読み上げる
 仕事で市役所に向かう車の中、無表情な機械ボイスが「ゲタゲタ」とワラッテいるようで私もつい釣られて、笑ってしまった。
いやあ、あき! すまん。きみの怒髪天を衝く・怒りの文章を笑ってしまった。ゲタゲタはたぶん「!!」か「怒り」マークとか「笑顔」マークなどの絵文字が文字化け(〓ゲタマーク)#2.したもの。絵文字を多用して怒ってたんだね。笑ったけど、しかしおまえの気持ちは、痛いほど分かった。


事の発端


あきからガイにきた近況報告(というか、単なるおしゃべり)携帯メールの中に「髪をカットした」という一文があった。ガイは「どんな風にカットしたのか見せて」と返事をした。ごくごく普通の親子メールだ。いやはずだった。しかし、これが仁義なき「あきvsガイ」のバトルの中でも歴史に名を刻む大戦争の発端となったのである。
あきからの返事には写真が添付されていた。笑顔満開でウインクというお茶目なもので、年頃の女子の元気いっぱいの笑顔だ。男親なもんで、髪型がどう変わったかまでは表現できにくいが、ふんわりとした感じ。好感を持った(親ばかも半分あるけど…)。
しかしガイの反応は違った。
「なんか頬がこけたような気がしない?」
とのたもうた。ガイは、小学生のころから頬に肉がなく、よって外人と骸骨の両方から「ガイ」というあだなをつけられた。今では実家と佐藤家の義母、娘、息子以外のほとんどが名前のように呼ぶ「ガイ」というニックネーム#3.の由緒も棚にあげるところが恐ろしい。
あきは、私のプックリほっぺと、ガイのゲソゲソほっぺを足して2で割ったのでちょうどいい、ふっくらシャープというなかなかなほっぺになっているのにね。
という私の忠告も無視し、ガイはあきにメールを返した。どんな内容かは、その時は分からなかった。

翌日。私のパソコンにはあきからメールが。
「こないだは写り加減でやせすぎに見えたかもしれないけど、お母さんあそこまで言うなんて、当分話したくない。実際見てもないのに。お金ないから貯金と、冬服および仕送り送ってって伝えてください」
怒っている。かなり怒っている。ガイがまた余計なことをいったようだが、でも、ちゃっかりと…、もといしっかりと仕送りを求めているのが、あきらしい。うーむ。侮れん(笑)。ともかく返事をした。
「ちゃんと印刷して、伝言もプリントアウトしてみせました。やれやれ(笑)」
すると。
「伝言はプリントアウトしなくてもいいのに。私はこないだのお母さんからのメールこそプリントアウトしてみせたい」
私までとばっちりを受ける。で、その問題のメールが転送されてきたのだが読んでびっくり、面白い!! もとい、想像を絶するひどさに絶句。ガイは愛娘にこんなメールを返信していた。
「写真みたけど顔やせすぎでめくさいよ#4.。顔もう少しプックリのほうがカワイイよ。あごなくてキモイ」
あっ! ひどい。写真では口を大きく開けているので、ほほがこけているように見えるだけだと思うし…。しかも口を開いているから、あごもとがっているように見えるだけだし。しかもよく考えると、「あごがない」という表現は、太って二重あごになった人に使う言葉で、完全に誤用だしね(笑)#5. しかも、私の自慢のあきちゃんに対して「キモイ」とは! いかに言葉の流れとはいえ、断固、撤回を求めます!
あきは、このメールを読んで呆然自失したらしい。書き言葉は、話し言葉の何十倍もきつく感じられる。このへんの事情をガイは理解していない#6.。あきは返事を出さなかった。
するとよせばいいのに、追い打ちをかけるように第2弾を送信。
「一言忘れた、ふけて見えるよ」
呆然自失のところに、またも非道のメール。当然、あきは沈黙したまま。
するとガイはさらに執念深く、とどめのメール。
「怒ってるまた。だから太れちゅうの。角度かえて写真見せて怒った顔の」
当然、怒るよねえ(笑)花の女子大生、しかもまだ18歳。いつも年より若く見られるあきに対して「ふけて見える」「怒った顔見せろ」とはあまりにもひどい。いくら娘の健康を心配しての発言とはいえ、表現の仕方が過激すぎる。文面だけ読むと鬼のような母である(^_^; 。
慌てて、
「これは確かにひどい。言葉が過ぎます。お母さんが悪いですね」
と、なだめのメールを送ったのに、冒頭の〓〓(ゲタゲタ)メールが返されてきたのだった。
「でしょでしょ〓〓バイト疲れておわったらこれだよ〓気になったから友達や寮母さんに聞いたら、そこまでやせすぎるように見えないって、笑っていわれたよ〓三食たべてるしさぁ〓〓とゆーか美容にも三食がベスト〓〓私も食べるの大好きだし〓Kちゃんなんて節約とかバイトとかで一日一食だよ!大学の宮城出身の一人暮らしの子とか朝が梨とかバナナ一本とかの生活だよ?そんなんじゃあるまいし〓」

その後。あきから、にっこりと笑った写真が貼付されたメールが届いた。全然、ほっぺは痩せてないし、いつもの元気な笑顔のあきなので安心する。
…でもこの写真。顔は笑顔でも心はガイへの怒り心頭に発していたはず。そんななか、スペシャルスマイルを頑張ってつくるあきを想像すると…。もう何というか、微笑ましくて。笑みがこみ上げてきた。
その感想を話すと、鬼・母ガイも笑っている。弟のゆーたも、ばーちゃんも。あきの気持ちがよく分かるだけにな。もちろん「あきにはちゃんと謝っておけよ。絶対に言い過ぎだからな」と、夫の威厳#7.でもってガイにはクギを刺しておいた。


それが去年の秋の話。実はこの話は封印しておくつもりだった。
でも、4月14日、ゆーたの高校入学を見届けて、ガイのお母さんが天に召された。だれも怒ったところをみたことがないという、穏やかで、控えめなばーちゃんであった。私はガイに、お母さんの遺伝子を思い出して欲しいと思う#8.。そこで、あえてアップすることにした。
先に亡くなっているいるガイの父ちゃん、そして佐藤家のじーさんとともに雲の上から、娘と孫たちをいつまでも温かく見守ってやってください。よろしくお願いします。

( のりお )

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あずみによる脚註
この話はちょっとだけ聞かせてもらっていたけど、いやはやスゲー。おれが奥さんにキモイなんていったら獄門磔に違いない。
1.) 我が愛車ウィル・サイファ:
WiLL CYPHAはトヨタの車で、G-BOOK とか云う多彩なハイテク装備が標準でついていて、インターネットに接続できたりする。メールも読み上げてくれる。
2.) 絵文字が文字化け(〓ゲタマーク):
携帯電話メールの絵文字など、一般的な文字コードから外れている(該当するコードに文字が割り振られていない)ものは、パソコンなど標準的な文字コード上ではとりあえずコード外として〓に置き換えることになっている。一般的な文字化けとは、コードを別のコードに置き換えてしまう(間違ってしまう)ものなので、ちょっと違う。
3.) 名前のように呼ぶ「ガイ」というニックネーム:
すでに高校の時にはガイという名前が一人歩きしていて、本名は知らないがガイなら分かると云う人が多かった。外人みたいに彫りの深い顔は草刈正雄みたいで後輩女子にもてたらしい。
4.) めくさい:
気仙沼弁で、可愛くないということ。しかし、めくさいあるいはめぐさいとも云うが、どういうところから出た言葉なんだろう。東北ではかなり広く使われているようだけど。。。ちなみに気仙沼弁についてはオヤマさんのところが面白い。
5.) 完全に誤用だしね(笑):
この場合はたぶん、やせてあごが尖って小さく見えると云うことをいいたいのだろうね。じゃ、逆だ。あごがとがっててキモイになるじゃん。あと、まれに太ってはいないけど、下あごが異常に小さい、というか奥に引っ込んでいるせいであごが無くなっている人はいるよね。
6.) このへんの事情をガイは理解していない:
考えてみれば、だれだってそうやってメールで書いていいこととダメなことを覚えるのだけど、しかし携帯メールはそこらが少し甘いのかも。のりおくんも試しに、しわが深くてキモイとか書いて送ってみればいいのに。
7.) 夫の威厳:
のりおくんに威厳があれば、そもそもこういう事態になっていないような気がする。つうか多少の威厳などガイのパワーの前には薄紙ていどの抑止力しかないのかもな。
8.) お母さんの遺伝子を思い出して欲しいと思う:
こうやっていろいろガイのことを書いているけど、おれからも一言いうならば、ガイについて悪く云う人は1人も見たことがない。その性格の良さは筋金入りで、それはもう完全にお母さんからの遺伝子なんだろうな。ゆーたの性格の良さもそうだね。あらためてお母さんのご冥福をお祈りします。




それにしてもガイって凄いなあ