pinうたた寝を破るAO入試
(佐藤家の日常から55)
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Aちゃんがいち早く大学に合格した


ガイの親友・Sちゃんの愛娘Aちゃんがいち早く大学に合格した。我々世代には耳慣れないがAO(自己推薦)入試#1.でだ。簡単に説明すると、「自己PR書類」や「面接」、「小論文」などで自分のやりたいこと、やってきたことをアピールする入試制度。何かと批判の多い「一芸入試」とは違って、実に立派な制度だと思う。Aちゃんはこの新しい制度でいち早く、私立有名大に合格を決めたのだ。本人の努力もあるだろうし、何もできない親心を思うと実にめでたい! おめでとう! の連呼なのである。
Sちゃんは、中学、高校を通じての同級生であり、体力、知力双方でガイの永遠のライバルである。血液型も同じB型。外見はロシア系女スパイのガイと、丸顔和風癒し系のSちゃんではまるで雰囲気が違うが、性格はともにおおざっぱで、細かいことは気にしない。ガイはツチノコ事件#2.をはじめ、様々な「間の悪い」というか、天然系の外し方で夫のペースをズタズタにする。それがSちゃんの場合はこうやってくる……。

その日、おれは休みで二階の居間にいた。天気は秋晴れ! 窓からはさわやかな秋風がそよそよと吹き込んで来る。昼食後、ソファーに体を預けると、体の底から健全な眠気が沸き上がってきた。おお! 「黄金のうたたね」(ビートルズのラストアルバム「アビーロード」収録の名曲「Golden Slumbers」#3.)がまさに到来しようとしていた。
まさに、その素晴らしき、その瞬間にガイのピッチの着メロが鳴った。「オウ・マイ・ガット!」一発で目が覚めた。死んだじいさんまで生き返るんじゃないか? というほど甲高く響く。ガイはPHSを家に忘れていったようだ、でもなんでこんなに高い音量に設定してあるのだ?#4.
「ちっ!」
ガイへの電話だから出るわけにもいかない。ソファーから起き上がり、発信者を確認するのも億劫だ。結論! 放っておいた。留守電には設定していないようで、しばし鳴り続けたあと着メロは終った。
「やれやれ」。軽く嘆息をついて、目を閉じた。
その10数分後。今度は睡魔が私を心地よくゆりかごに抱いてくれたその最中にまた「タララン、タララン・・」と脳天気な着メロが朗々と鳴り響いた。しかも今度は長い。どうしよう。ガイへの電話だが、しょうがない。どうせトコ姉ちゃんか、ガイの悪友どもの誰かだろう。
「どっこいしょ」と体を起こし、PHSに手が伸びようとした瞬間。プツリと電話が切れた#5.。コンニャロメ!
人をあざ笑うかのような絶妙のタイミング。こんな芸当ができるのはPHSを忘れていったガイ本人。その遺伝子を受け継いだ愛娘・あき、はたまたやはり天然一族の仲間である、トコ姉ちゃんか? と相手を頭の中で検索。せっかくの「黄金のうたたね」は、こうしていとも簡単に完膚なきまでに叩き潰されたのであった。

そう。その電話こそが、Sちゃんから悪友・ガイへの合格第一報だったのね。ガイと長年付き合っているからか、類は友を呼ぶか、はたまたガイの私有物というだけでそのPHSは持ち主の性格に染まるのか? ガイのだ液が機械に染み込んで、化学反応を起こしているのか? いやそのすべてが連動し、連鎖し、共犯関係にあるのか? 恐ろしいほどの間の悪さ。頼むから「黄金のうたたね」を返してくれ。
しかし怒るに、怒れない(笑)。当たり前だ。何ともめでたい連絡なのだから。しかもガイに電話してくれたSちゃん気持ちがうれしい。怒ってはバチが当たる。
だからよけいにタチが悪いのね(笑)。おそるべし、ガイ&ウバザクラ軍団! 絶対に敵には回したくないぞ。
でも本当に、Aちゃん合格おめでとう! 東京で、あきが待っているからね#6.

( のりお )

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あずみによる脚註
それにしても、どっちの子も親よりずっと出来がいいよねえ。あやかりたいあやかりたい。
1.) AO(自己推薦)入試:
知らないうちにそんなのが出来てたんだ。でも、真当な改革というか意味ある制度が出来たって気がするね。
2.) ツチノコ事件:
詳細は、大地の子を読んでね。
3.) 「Golden Slumbers」:
ビートルズのラストアルバム「アビー・ロード」収録のメドレー、いわゆる「アビー・ロードのB面」の中の1曲。のりおくん曰く「アビー・ロード随一の名曲」 You Never Give Me Your Money からはじまる目眩くジェットコースターのようなスリリングなメドレーが落着いた先にある豊かな温もりに包まれた佳曲。メドレーはこの曲の後コーダ部分の Carry That Weight-The End に向う。
4.) なんでこんなに高い音量に設定してあるのだ?:
のりおくんは、ガイは慢性中耳炎だからこんなに高く設定してあると思っているらしい。でも、いくら高くしても、聞こえないときは聞こえないんだよなあ。
5.) プツリと電話が切れた:
ガハハ超慣用的表現だねえ。でもそうだよなあ、昔の電話はプツリと切れたんだよね。携帯電話は切れるとき曖昧な感じがする。
6.) あきが待っているからね:
そっか。あきちゃんも東京の有名私立大学、ここでもライバル関係は続いているのか。




それにしても入試ってやだねえ<意味なし