十文字の真実
(佐藤家の日常から76)
● 啓蟄も過ぎ、虫もはい出る、ある日の午後
虫の良さ#1.だけは人後に落ちないガイが、
「ここ、見て。ほらここ」
と左手の手のひらを差し出した。
「はっ?」
「ここに十字があるでしょ。ここに十字形があると、万が一戦争に行くようなことがあっても、生きて還れるんだって」
「…」
「あんだは?」
「おれ? ここか?」
「チッ! あるじゃん。でも薄いねえ。薄い、薄い。すごく薄い。たぶん交通事故では死なない程度だね。でも良かったちゃ。交通事故で死なないんだから」
「まあ、事故死はしたくないけどな」
「でも、私は戦争だから。レベル違うからね」#2.
確かに、5万人の部隊が全滅しても#3.、ガイだけは生き残るような気は、確かにする。
まっ、おれは虫も殺さぬいい男#4.だから、いいや。
( のりお )
▲あずみによる脚註
春なので、小ネタをちょっと出して様子を伺うのね。
1.) 虫の良さ:
虫がいいという言い方はあるけど、虫のよさというのは日本語的にNGではないのかな。
2.) レベル違うからね:
ともかくなんでも負けず嫌いのガイお母さんなんだけど、体力面では圧倒的に勝たないと気が済まないらしい。それにしても、交通事故で助かると保証してもらってよかったねえ。
3.) 5万人の部隊が全滅しても:
こういう場合は、1個師団が壊滅してもというと雰囲気がでますよ。
4.) おれは虫も殺さぬいい男:
つまり、啓蟄からはじまる虫ねたは、これの前振りだったという事ね。いいかげんにしなさい。
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