pinばーちゃんの旅立ち
(佐藤家の日常から77)
yoko
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私のキャッチコピーは「無謀かつ小心」#1.だが


その、「小心」のDNAを私に一子相伝した母が亡くなった。
父が亡くなって8年目の今年7月、あきと、ゆーたのばーさんは、あちらの世界へと旅立った。享年78。
80までは何とか生きてほしかったが、自宅玄関で転倒して骨折してから1年半、徐々に足腰が弱り、今年は食事の際に起きる程度という半・寝たきり状態だった。亡くなる1ヶ月前からは、食もめっきり細くなり、最後は眠るようにして亡くなった。

幽明境を異にしたその日。夕食後、2階でメールをチェックしていたら、ガイが、ばーちゃんが呼んでいると言うので下にいってみた。だが母は、手をガイに向かってスッと伸ばし、無言で彼女の手を握っただけで、さしたる用はないようだった。
亡くなってすぐ、二人とも同時に思ったが、あれが今生の分かれの挨拶だったのだろう。
リウマチがあり、しかも歩かなくなったことで、血管がかなりもろくなっていたのだろう。亡くなる直前には、起きて5分もすると苦痛を訴えていたくらいで、体はかなりきつかったようだ。少しでも食べ、起きて、体力を回復させようとしたのだが……。逆に辛さ与えてしまったのか? と、悔いは残るが、やっと楽になったのだろう。穏やかな死に顔が救いだった。

四十九日が過ぎ、佐藤家は徐々に日常を取り戻しつつある。4人のうち、あきは就職、ゆーたは進学し、気仙沼を離れている。今は私とガイの2人で「ヒバリーヒルズ」生活#2.を送っている。ガイは相変わらずなので、飽きはしないが、やはり少々寂しい。

床に着く時間が長かったとはいえ、ばーさんの頭ははっきりしていた。ガイより記憶力がいいくらいで、毎日毎日、こりもせずに頭を悩ます夕食のメニューについても、ばーさんに相談するのが日課だった。そんな聞き上手なばーさんが、欠けたのをガイは本当に残念がっている。

もちろん、あきもゆーたもとても悲しんだ。

葬儀の日。お別れの言葉をゆーたに任せた。
前夜、ゆーたが書いた文章をチェックしたら、なんと5回も「アイスコーヒー」という言葉があった。#3.
文章力のなさは、ガイに似たのか、ゆーた。それでは大学のレポートでも苦労するぞ ── などと心中ぼやきながら、職業上、お手のものである校正を施し、アイスコーヒーという文言を2回にした。
アイスコーヒー5回はともかく、それでも全体に拙い文章だ。しかしあえて美辞麗句的な校正はしなかった。親が書いたとおぼしき小学生の出来過ぎ作文ほど、げんなりするものはないからね。拙くとも、覚束なくとも、ゆーた自身の言葉でなけりゃ意味がない。
ばーちゃんが好きだった ── という、ゆーたの素直な気持ちが出て、親バカながら、なかなかいいお別れの文になったと思う。
葬儀の席で聞いていて、私もガイもほろりとさせられた。

あきは、仕事中だったが駆けつけることができ、骨になる前のばーちゃんと会うことができた。大粒の涙がほほを伝っていた。いつでもどこでも丁々発止できるガイとは違い、あきをいつも温かく見守ってくれたばーちゃん。あきの一番の応援隊長で、いつでもあきを励ましてくれた。
死化粧を施し、穏やかな顔で横たわっている、ばーちゃん。ばーちゃんの顔はどこか微笑んでいるようであった。慌ただしく家に駆け込んできた、そんないつものあきに会えてうれしかったのだろう。「あきは、いつも忙しそうだね。頑張らいんよ」と。
悲しい、悲しいお別れの時だったが、あきはあきらしく、ゆーたはゆーたらしく、ばーちゃんに別れを告げた。

佐藤家は4人になってしまったが、これからも仲良く、ドタバタしていきたい。父母、あき、ゆーたから見ればじーちゃんに、ばーちゃん、今後も空の上から見守っていてください。

そうそう。写真は、ばーちゃんという話し相手を無くし、ぬいぐるみの「リラックマ」を抱き、缶ビールを片手に熟睡するガイ。このミスマッチこそ佐藤家だ。うはは!!


gai


( のりお )

yoko
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あずみによる脚註
あの、優しい母上がもうこの世にいないのですか。。。合掌。

1.) 私のキャッチコピーは「無謀かつ小心」:
のりおくんはプロフィールで▼、小さななこだわりが常に大局観に勝り、「大胆にして細心」を旨としながら、その実体は「無謀にして小心」、と自分を分析している。
2.) 「ヒバリーヒルズ」生活:
自宅が気仙沼市郊外の高台にあることから、のりおくんは勝手にヒバリーヒルズと呼んでいる。もちろんビバリーヒルズに引っ掛けているのだけど、それだけでは満足せず、ひばりが丘とも引っ掛けるため濁点をとりヒバリーヒルズ。果てしないオヤジギャグです。当然そう呼ぶのは彼だけです。
3.) 5回も「アイスコーヒー」という言葉があった。:
確かに、ゆーたは、ばーちゃんの作るアイスコーヒーが大好きだったが(教科書救出大作戦▼参照のこと)、それにしても多すぎるぞ(笑)。(この項のりお)




あの、にぎやかだった佐藤宅がいまや二人とは。。。時の流れとは恐ろしいのう。
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