2/15/1999 Renew   ホーム  インデックス

pin 激烈寝違い日記
<9/9/98 up>




まず、ゆん#(1)↓がめでたく退院したそうです。
その、ゆんを見舞ったとき、あったけ#(2)↓、ゆんをからかった。「短い首だから、回らないと不便ね。けけけ」その報いが一週間後にきっちりと来るとは。恐るべし。ゆん。

20日の朝。
洗顔時に首に違和感を覚えた。でも、今まで何度も経験している寝違えの「あいたた」という状態ではなく、肩が凝ったような感じだった。腰は最近、前屈みになるとぎすぎすとするが、肩凝りには縁がない。首を回すと、右の筋がやや突っ張る感じがしたので、「これはちょいと変な姿勢で寝たな」と寝違いと自己診断した。
まあ、寝相も悪く、寝癖も日常茶飯事、寝違えも、子ども頃から何回も経験しており、そのひどさに比べれば軽症も軽症。首をぐるりと回してみて
「ゆんの祟り」
とつぶやいて、そのつまらないギャグにひとりで笑った。何のこともない、いつもの朝だった。
しかし。午前中の仕事を終えて会社に戻り、デスクに向かう時には、朝の違和感がはっきりと、あの居心地のはなはだ悪い、寝違い特有の痛みに変わっていた。しかも、原稿書いて、ふと気付くとさらに悪化。気を取り直して原稿書いて、再び、悪化。完璧にあの、寝違い「あいたた」状態に陥っていた。
それでも、まあ寝違いである。性格的に、そういった状態は人に知ってもらい、笑ってもらわないと気が済まないという子供じみた部分がある。
「いやあ、朝は大したことなかったのに。二日酔いと同じで最近は時間が過ぎてから症状がでるなあ。年だわなあ。いていてて」などと苦笑してみせたのであった。
ここからが、本当の「ゆんの祟り」なのに、まだ気付いていなかった。

悪夢の第二段階は常務からもたらせられた。10月で退社する記者の補充問題で会社側から提案があるという。社長室でその概要を聞く。内容は「補充はしない。来年度まで暫定体勢でいく。管理職が外勤の一部をカバーする」というもので、「今週中には組合側の意見をまとめてほしい」とのこと。#(3)↓
それを受け、夜は緊急職場集会となった。寝違いはひどい状態になってはいたが、それでも「一晩寝れば、こんなもの」と強がれる程度で症状は止まったような気がしていた。
 集会は予想したように大荒れ。強硬派は息巻き、穏健派も「補充を会社側に求めてほしい」と同調。2時間の集会は、当然のごとく猛り狂う強硬派の提案で場所を居酒屋に移して続行となった。
酒は鎮痛剤だ。胃の調子が悪くても飲むと痛みはどこかに消え、飲めることが多い。スナックの2次会になだれ込み、千田の18番、憂歌団の「おそうじおばちゃん」を首を振り振り熱唱、「うんうん。働く者の悲哀だよなあ」と強硬派をほろりとさせつつ、やんややんやの喝采を受けた。イエイ!と首をぐるりと回して見栄を切った。
「首にするなら、してみろ。てやんでー」
ご機嫌で帰宅。あき#(4)↓のほっぺにキスして寝床に滑り込んだ。寝違いの一日はこうして終わった。

ところが。
激痛で目が覚める。時計は午前3時を少し回っていた。そしてそこには首を1ミリも動かせない自分がいた。
「そんな、バカな‥‥」
試しに、首をちょいと前に傾けたとたん「ぎゃ!」と叫ぶ痛みが首に走った。よく首を急に横に向けた瞬間に首筋に「ビシッ」と信じがたい痛みが閃くことがあるが、その電光石火の痛みとは違い、ぎゅーっと収縮するように痛みは来た。ただ、あの「ビシッ」に比べれば激烈ではない。
たとえて言えば、修行不足で射精を我慢できず、先っぽからチョロっと漏らしたあの感じである。思うさま精を放つ時のあっけない性急さとは違い、ぐわーとは来るが、オーガスムスに上り詰める一歩手前で、無理矢理事態を収拾させる、あのなんともケツが落ちつかない感覚。
 くしゃみが出る−と確信して1秒後。あれ?という感じにも似ている。
しかし、これは快感の話ではなく、痛みの話だ。オルガスムスのように上り詰めないことを感謝こそすれ、放出感への期待などはこれぽっちもない。事態は楽観できるようなもんではなくなりつつあった。
 酒の鎮痛作用が徐々にからだから消えて行くのと、増して来る痛みが緩やかなカーブでグラフ上を交錯した。
寝よう。寝るしかない。・・・というのが結論だった。
 しかし。今の寝ている体勢では首をほんの少しでも動かそうとするだけで、あのチンポお漏らし激痛が走る。汗がにじむ。ション便も詰まっていたのに気がつく。
「首の筋も詰まって、ション便も詰まる」
こんな時にも、こういうことを考えてしまう自分が本当に嫌いだ。
「あだだだだ」という声とともにトイレに。起きると痛みはぐんと軽減する。
 ただ、下は向けない。チンポを見ようとするとズキュンときやがる。
寝るのは簡単だ。体をベッドに投げ出せばいい。首も重力の魅力的な誘いに乗って自然に落ちていけばいい。軽い痛みはあったが、その軽さが、「イッツ・ゲームオーバー」の軽い余韻の役割を果たしてくれるのではという虫のいい思いが頭をかすめる。
しかし。また、しかし。
 自分の甘さを思い知るのに数秒とかからなかった。
「いでででで」
 やはり事態は依然かわっていない。
一番痛みが少ないのは、痛めた左側を上にして横を向き、首はやや下向き加減。なのだが、この体勢の致命的欠点は、少し動くだけで例のチンポ先チョロ痛みを簡単に誘発してしまうことであった。人間、じっとしては決していられないというのを、この夜は痛感した。文字どおりで、ある。
そこで次善の姿勢である仰向け、枕なしの姿勢に移行を決行するのだが、これがまた、大変だった。
左向きから仰向け。簡単なポジションチェンジである。
 体を90度、くるっと回転させればいいだけなのだが・・・。しかし、この次善の位置に変えるその動きこそが、チンポ先漏れ状態を確実に引き起こすのだ。意を決して1、2度挑戦したが、3度にはさすがにおぞけを振るわざるを得なかった。
 度重なる挑戦は「あだだだ」状態から「うぎゃぎゃぎゃ」状態へと症状を悪化させていたのだ。
そこで左横向きから、まず「いてっ」とうつ伏せに。続いて「いてててっ」と右向きに。次はなかなかくせ者で、腰を丸めつつ、首を枕から下ろす。「あだっ」。そして腰をずるっと移動しながら、左足で反動を付けながら、えいやと仰向けに「いつつっ」。

この270度回転を繰り返しつつ、冷や汗混じりの夜は明け、21日。
下向くこともままならず、タオルを水で濡らして顔を拭いた。
 鏡でチェックすると、左の肩がガクンと下がっている。首は左には10度も動かすと「ビン」とくる。右側は45度まで回せるが、それでもひきつる痛みが「ジワッ」と来る。下は向けない。下向きへの動きが一番、痛みがひどい。唯一上を向くことは通常と大差なくできるのが不思議だ。
かといって「上を向いて歩こう」なんてのは無意味だ。
 悲しいことに「上を向く」という首の動きは、デスクワークを主としたサラリーマンの日常生活にもっとも不必要な動きだ。恐るべし「ゆんの祟り」。
 昨日の楽天的な朝の光景とのギャップに愕然とせざるを得なかった。
「まず薬を買おう」。
インドメタシン入りの塗り薬がよさそうだ。
 ガイは日頃の不摂生を責める“KGB”の目つきでにらんでいる。
 着替えするのも四苦八苦しながら、車へ。
「うーむ」
 なんということか。車の運転とは、首の間断なき動きのことであった。
 右のドアミラーは目の動きだけでかろうじてカバーできるが、左は無理だ。眼球筋が今度はひきつりそうだ。眼球筋が吊ることなんてあるのか、どうかは知らない。武山はチンポの筋が詰まったことがあると、かつて自慢げに話していたのを思い出す。まさか。しかし、この状態で眼球筋まで万が一吊ったら、それこそ万事休すだ。
そんなお笑い心身障害者状態で、とにかく会社へ向かう。近くの大型ドラッグストアの開店は午前10時なので、ちょうどいい。
しかし。車の運転は至難を極めた。なんせ首が左にほとんど動かないのだ。そして、さらに恐ろしいことに、車の運転とは無意識の連携行動が必ず伴うということでもあった。
 通勤途中にはJR石巻線の踏切がある。一時停止。左右確認。と毎朝の決まり切った行動。一時停止。左右・・・まで来て、「いっ、いかん!」と警戒警報が頭に鳴り響いたのだが、体は止まらない。・・・確認と右向いて、あああ左!やっちまった!
「ふんぎゃあ!!」
思いっきりの激痛。眼球が飛び出す。眼球筋が肉離れするっ!
 どう踏切を越えたのか覚えていない。越えたところで車を止めて、今起きた事態を反すうする。「これはやばい」。「あまりにもやばい」。
 手帳を取り出し今日の予定を見る。オウマイガッ!3つも取材がある。特に牡鹿町の表浜に行かねばならぬ。大型連載企画につかう写真の撮影だ。会社にどうにかたどり着いて、2つの取材は隠密にキャンセルした。でも牡鹿の写真は今日中に必要だ。
そうか。しょうがない。それにつけても、まず薬だ。薬で症状が軽快するのに期待するしかない。
 買ったのは「バンテリン」というインドメタシン配合のやつ。「痛みを直接取る。こんな薬、できたんです」と宣伝しているやつだ。塗るとメントール成分が気持ちよい。ジンジンする。何かすごく効いた感じがした。
 でも。その気持ちよさは3分とは続かなかった。まあ肩こりとかの重苦しい痛みには効くのだろうけど、急性の痛みにはあまり役立たないようだ。
仕方ない。ルートを検討する。まず信号機のない交差点はなるべく避ける。
 右折はなるべくしない。左折の方が楽だ。座席にやや左向きに腰掛ける。
 背もたれは一番立てた状態にセットする。前にカーショップで買っていたミニミラーを車の左側面を確認しやすいようにとりつけた。
途中、牡鹿町入り口の3叉路でいきなり飛び出してきた軽トラックがあり、首を左にグキッと振ってしまい、ギャンとなったが、おおむね作戦は成功。
「あいたた」「いてっ」程度で往復できた。
 人間は知恵のある動物である。自分を誉めてやりたい気分だった。
会社に戻ると女川魚市場からギンザケ終漁のファックスが届いていた。ラッキー!である。ネタのない日は肩身が狭い。毎日が締め切りの世界、ネタがあるとなしでは、社内での居心地がまるで違う。
 おまけに痛みも、ずっと起きていたからか、薬がじんわり効いてきたのか、やわらいできたようだ。
 朝、出社したときには頭痛と吐き気も感じたのだ、ゆんの頑固な祟りもどうやら、影を潜めつつあるようだ。
 心の中に安堵が広がる。
さあ仕事だと机に向かう・・・が、
 パソコンの画面が・・・・見れない!#(5)↓
 首が下を向こうとすると、ぐぐぐっと痛みが増してくる。
いやん。どうにかして。
画面の角度を変えても、完璧なブラインドタッチをマスターしているわけではない。2、3分もすると痛みというより凝りが許容限度を超す。いかん。原稿が書けない。
背に腹は代えられない。
椅子の高さを変えた。一番下にする。それでもだめ。ええい、椅子なんかいるか。床に膝をつく。まるで犬のちんちん状態でぱこぱこキーボードを打つはめに。
 アルバイトの可愛い女の子からは笑われるし、第一自分でもあまりにも格好が悪く、原稿に集中できない。
 うーむ。「ゆんの祟り」は、ここまでおれを辱めるのか。
冷や汗をかく。エアコンはパソコンだらけのオフィス内を冷やすためギンギンだ。
いかん!!!
絶対だめだぞ!!
あー!!!!!
・・・、出る!
「へいくしょん!!」



ぎゃああああああああ!!!


21日の夜も、昨日の夜ほどではないにしろ、苦行のベッドとなったことはいうまでもない。
そうして1週間。いまでも首を90度近く回すと鈍い痛みが残る。
家庭医学百科によると、寝違いはぎっくり腰と同じ状態と思われるが、発生原因はまだよく解明されてない−とある。一般的には頚部の筋や靭帯を無意識に引き伸ばしてしまったためなどが考えられる−そうで、起床時に起こるが、忘れたころに再発もするという。自然治癒を待つしかないが、痛みは数日続く場合もある−。
いやあ。恐るべし寝違い。
「忘れた頃の再発」だけは、ゆん、勘弁してね。

(佐藤 紀生)



あずみによる脚註
1.) ゆん:ガイ(のりおくんの奥さん)の親友。横断歩道で軽トラックにはねとばされ、頸椎捻挫で入院中だった。ざぶた猫的性格で怒らせると怖いが、運動神経はいまいちらしい。
2.) あったけ:気仙沼弁で、たくさん・いっぱい・の意味。ありったけとは少しニュアンスが異なる。あったげ昔、あったけ怒られるなど。
3.) 組合側の意見をまとめる:のりおくんはいま、不本意ながらも組合書記長として前線にいるが、今年は不況のせいもあって大荒れらしい。酒と胃薬の日々が続いている。
4.) あき:のりおくんとガイの長女。利発でクールで食いしん坊な中学一年生。最近お母さんは、いつも簡単にやり込められるのであった。おとうさんはまだ見捨てられていないらしい。
5.) パソコンの画面:富士通のノートパソコンなのだが、もっぱら記者用ワープロだけを使っているらしい。実にもったいない。おまけに、LANではなく電話回線によるネットワークというフシギなことをしている。(2002.4補遺:いまはLANになったそうな。そら当然かも)
ya1 馬鹿ミニ ya2

North Marine Drive / by Ben Watt