肉は腐る寸前が最もうまいそうだ、熟成がピ−クになるからだろう。タバスコ、コショウ、ついでに唐辛子があればどんな料理もごきげんという味音痴の私は「賞味期限を過ぎたヨ−グルトはうまい」と解釈している。少し違うような気もするが。
ロックも熟成の極みに達した時期があった。70年代中期だ。キング・クリムゾン「レッド」しかり。ジェフ・ベック「ギター殺人者の凱旋」しかり。イーグルス「ホテル・カリフォルニア」、レッド・ツェッペリン「プレゼンス」、ピンク・フロイド「アニマルズ」、スティーリーダン「エイジャ」、ボズ・スキャッグス「シルク・ディグリーズ」、ブルース・スプリングスティーン「明日への暴走」、まとめてしかりしかりしかり。最高傑作が目白押し。まさに蜜入りリンゴの季節だった。
しかし爛熟の裏では既に腐臭が漂い始めていた。ジャーニーぺっ、スティクスぺっ、カンサスぺっが大ヒット。まるでファミレスの横隔膜ステーキ。砂をかむような味気ない音が台頭してきたのだ。ぺっ、ぺっ、ぺっ。あのままだったら私は今ごろ「ろっくぅ?昔はよく聞いたよ」などとのたまう30代後半によくいる嫌味な“ロック・ナツメロ男”になり下がっていたと思う。
果たして歴史は揺り戻す。パンクの登場だ。腐らず、激しく発酵した音。イアン・デューリーのデヴューは、ピストルズわーい、クラッシュわーい、コステロうわーい、テレヴィジョンわーい、わいと同じく77年。
小児マヒで不自由な足を杖で支え
“起きて、わいとセックスしようぜ”
とだみ声で歌う「起きろよ愛人!」(Wake Up Make Love With Me) をはじめ、パンキー・ファンクとでもいうべき小気味いい曲が弾ける。
19才の冬。東京で2浪目という情けない状況で、蓄積したマイナスエナジーが激しくショートした。“勝手にしやがれ”という叫びや、好きにやればいいんだ —— という乱暴な結論が心地よかったのだと思う。
‥‥今でもこのLPはたまにターンテーブルに乗る。そして「ええい、石頭ども(ブロックヘッズ)、オレの邪魔をするな。うせやがれ」と一緒にがなってみたりするのだ。
(佐藤 紀生)
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