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pin マッチ1本でもエスパー




星新一のショート・ショートに、超能力の一つであるサイコキネシス(念動力)を授かるが、その力は精神をありったけ統一して、ようやくマッチ棒一本を動かせる程度という秀逸なアイデアがあった。主人公はそれを嘆く —— という話で、さすがに星ワールドならではのひねりの利いた、かつ笑える落ちであった(註1.)
そういえばあるギャグ漫画には、額に玉の汗を浮かべて女の子のスカートをペラリとめくり、気絶するという、なんともせこい念動力もあった(註2.)。でもこれは少し魅力があるなあ。ただ街で超ミニスカートの女子高生を見るたびに、気絶する変なオジサンになりそうで怖いけど。
超能力については、かの大槻教授ではないが、私もその多くは疑っている。でも霊の世界とかに比べれば、人間がまだ知らない力はあってもおかしくないと思う。精神力には未知の部分が多いからね。
たとえマッチ一本しか動かせないとしても、その力があれば、気にくわない奴 の心臓の冠動脈を「クニャ」と潰すことぐらいはできそうである。
 するっていと、そのせこい超能力でも、暗殺者として十分に商売できるのではなかろうか。高い金だしてゴルゴ13を雇わなくてもいい。彼の場合、いきなり背後に回ると回し蹴りを食らわしたりするが、せこい暗殺者はそんなこともない。握手だっていくらでもしてあげる。しかも相手は心筋梗塞の病死。完璧である。
そんなせこいサイコキネシス・テロリストがある日、同じ能力、力量を持つ相手と相まみえる。映画でもよくあるエスパー同士の一騎打ちである。が、しかし当の両人は、駆け寄った後、お互いの胸をまさぐり、頭を撫で撫でし始めるではないか。しかもお互いに息づかいは荒く、共に悶絶寸前の形相。時折、「ムゥ」とか「アウッ」とか「アヘ」とかの擬音に交じり、「殺してやる」「死ぬぅ」とかの切ない声が漏れる。
 これを見た人は、まさか目の前で繰り広げられている行為が、国際社会で犬猿の仲のA国とB国えり抜きのスパイ(しかも今までに幾人もの要人を暗殺してきた凄腕)同士の壮絶な死闘 —— だとは想像だにできないであろう。だが二人は、その能力の限りを尽くして必死に相手の冠動脈や脳血管を潰し合っているのである。
その敵同士が男と女だったらまだしも、男同士だと単なるハードゲイの場所もお日柄もわきまえない破廉恥な行いに堕してしまうなあ。
 今、A国のスパイが決着がなかなかつかないのにしびれを切らして、隠し持ったナイフで相手を刺してしまった。崩れ落ちるB国のスパイ。超能力者の風上にも置けない奴だが、傍目で見ている人にとっては痴話喧嘩の果ての刃傷沙汰に過ぎない。これが滅多にお目にかかれない超能力バトルだとは、市井の人間が気づく術もない。かくして真相は闇に葬られるのである。
って、あるかそんなこと!と怒るな諸兄。人類にはまだ未知の力もあれば、未知の事象もあるのである。さて、それはさておき、超能力と言われるもので何が一番欲しいかを考えてみた。代表的なのは念動力、透視、テレパシー、瞬間移動、・・・というところか。
でもあえて、今一番欲しいもの。それは1時間後へのタイムトラベル能力。どう終わらせればいいのか全く分からない、この話の落ちが知りたい。

(佐藤 紀生)



註1.:笑える落ち
・あああ、落ちまでばらしてしまった!といっても、星新一のショートショートはワンアイデアだからしょうがないよなあ。ともかくネタバレ御免。
ところで、限定されたサイコキネシスと云うと、ラリー・ニーヴン“ARMのギル・ハミルトンシリーズ”が有名だ。人には見えない第三の腕を持つ捜査官ギルが、オーガン・レッガー(臓器密売人)の犯罪をあばくというもので、彼の見えない腕が敵の心臟を‥‥やばやば、またネタバレしそうだったぞ。ともかく『不完全な死体』『パッチワークガール』<創元文庫SF>をどうぞ。

註2.:せこい念動力
・それは吾妻ひでおのにおいがするなあ。もしかしてマスクの不気味くんだったりして?違うかな。(この項、あずみ)
ya1 馬鹿ミニ ya2

Little Lamb Dragonfly / by Paul Mactertny & Wings