11/1/99 up   ホーム  インデックス

pin 家具調テレビの逆襲




その昔、電化製品に家具調なるものがはやったことがあった。
 仏壇みたいなカラーテレビ(註1.)とか、タンスみたいなステレオシステムとか、やぐらのようなこたつとか、ちゃぶ台のような掃除機とか(そんなのはない)、たくさんあった。今、生き残っている家具調電化製品はあるだろうか。木目のプリントされたエアコン(註2.)なんかは、どこかでひっそり生きながらえているかもしれないけど、ほかは、うーん。思いつかない。いつの間にかに消えてしまった。
それは日本の家がどんどん洋風化していったのと関係があると思う。家具調テレビがでーんと鎮座していたのは茶の間だった。間違ってもリビングではない。畳に障子かふすま、床の間に長押‥‥というような日本間だからこそ「家具調」、正確には「和風家具調」電化製品の存在価値があったのだ。今や日本間は、家に一室もしくは二室という時代になり、そのほかはフローリングのリビングに、ダイニングに、ベッドルームになってしまった。和風家具調は合わなくなったのだな。
電化製品の多くはプラスチックの塊だ。テレビもステレオもパソコンもクリーナーもランドリーも表面積の多くはプラスチックで覆われている。アメリカナイズされた洋風生活の中では、プラスチック製品がそのまま存在していてもマッチするというか、さほど違和感はない。わざわざ和風にする必要がなくなったのだな。
 こうして部屋の中を見渡せば、プラスチックだらけ。すっかりなじんだ景色だ。
しかし最近、ちょいとあきたらなさを感じてしまう。洋風化したんだから、オーク材をふんだんに取り入れたアールデコ風のカラーテレビとか、大理石を加工したロココ調のステレオセットなんかがあってもいいのに、なぜないんだろう。まあ洋風化といっても、ダイニングセットの椅子に正座して納豆ごはんをかき込み、温泉の素を入れた風呂に入り、せっかくフローリングにしたのにジュウタン敷いて、こたつでミカン剥いてんだもの、そこまでやるとこっ恥ずかしいだけだからなんだろうな。あっ、今思いついたけど、家具調こたつというのは、まだ死語じゃないぞ。あれはフローリングの床に、ふかふかジュウタンでも敷いて、洋風の室内でも合うようにという意図があったのだなあ。納得。
やや語弊はあるし、好きな言葉でもないが、本物志向というのが、プラスチック王国・日本でも出てきたような気がする。プラスチックはダイオキシンの主な発生源であることから、環境保護の面からも、そうした流れにあるようだ。ノートパソコンなんかにはアルミ合金とかマグネシウム合金だとかが使われている。放熱の良さ(註3.)とか、ゾウが踏んでも壊れないとか、100人乗っても大丈夫とかの堅牢さなど機能性を重視した結果なんだろうけど、プラスチックボディより、魅力はあるよね。突然、昔、弁当箱といえばアルミ合金だった(ってアルマイトだけど)などと思い出にふける。
 洗濯機がヒノキをふんだんに取り入れて「木のぬくもりをお洗濯に」なんてキャッチフレーズで売り出されても、売れないとは思うけど、最近はプラスチックのプランターよりは陶器のもの、樹脂フィルムを張り付けた安っぽい板材よりは、天然木を使った家具、金属製のたらい、ヒノキの風呂桶なんかが人気だという。
ここはひとつ、アップルあたりが「林檎物語」とかいって、和室に合う家具調パソコンとかを売り出してほしいぞ。秋田杉のボディに有田焼のキーボード、マウスはクルミ材のくり抜きなんていいなあ。どうせiMacでデザイン路線に踏み出したんだ。日本の美を取り入れてほしいもんだ。
ステレオセットも、欧米で人気の高い仙台箪笥なんかの重厚なデザインを狙ってはどうだろうか。通販なんかではレトロ調とかいってLPはもちろんSPもかけられるステレオセットが売り出されているが、あれは見た目だけのチープなものに違いないので、やはりここは職人の技が光る逸品に仕上げたい。
森林保護面からクレームが来そうだけど、最近は成長のやたら早い木(註4.)を使ったり、セラミック加工の技術も進歩しているというから、税金を搾り取っている人とか、さんざん消費者からうまい汁を吸った企業とかの関係各方面の人はがんばってほしいぞ。
ああ。それにしても懐かしきジャパネスク。きりりとした着物姿で文机に向かいて、電子手紙をしたためる。床の間には侘びた山水画。庭では鹿おどしがカコーン・・・。うーん。いい。できうれば、正座して茶を差し出す女房も純和風に限るが(註5.)、この点についてはコメントを差し控えたいと思う。

(佐藤 紀生)



註1.:仏壇みたいなカラーテレビ
・記憶にある和風の家電品といえばまず家具調テレビで、高雄(三菱:ネオカラー)嵯峨(松下:パナカラー)薔薇(三洋:サンカラー)魁(日立?:キドカラー)寿(メーカー不明)などだ。
家具調ステレオだと、飛鳥、宴(ナショナル)があったし各社いろいろ出してた。他に家具調冷蔵庫スペシアルオーダー(三洋)という珍品もあった。
家具調ではないかもしれないが、千曲(洗濯機:三菱)うず潮(洗濯機:松下)風神(掃除機:三菱)銀河(冷蔵庫:東芝)北斗星(冷蔵庫:日立?)など、家電には和風の格調高い名前が使われていたぞ。しかし、一部を除き軍用艦の名前みたいだな。駆逐艦薔薇なんてのがあったらこわいよな。(この項:小細工本舗)

註2.:木目のプリントされたエアコン
・木目をサイドに張り付けたクルマってのもあったね。ホンダ・シビック・カントリーとか云うワゴンだったな。あれはあれで、善いクルマだったけど、まだ走ってるのはあるかねえ。あと、サニーにも同じようなカリフォルニアとかいう謎の木目ワゴンがあったかも。
・京都在住、田中さんからの情報(10/6/2000 up)
家では、物持ちがいいのか20年くらい前のクーラーがこの夏も現役で働いていました。「木かげ(東芝)」、木目調です。

註3.:放熱の良さ
・のりおくんはこの夏、放熱の悪いプラスチック製のノートパソコンが故障してえらい目にあったから、放熱については実にうるさい男となったようですね。

註4.:成長のやたら早い木
・ケナフという、パルプとして使える非常に成長の早い一年草が有名。二酸化炭素固定という面でも役に立つと云われてるが、そこまではいくらなんでも期待しすぎでしょう。

註5.:女房も純和風に限る
・お馴染み佐藤家の女房ガイは、ロシア人と見まがうばかりに彫りの深い顔立ちで、サザエさんみたいな純和風奥さんです。(註2-5まで:あずみ)
ya1 馬鹿ミニ ya2

福生ストラット (パートII) / by 大瀧詠一