会社の後輩が結婚した。出席しない連中で電報を出すことにした。張り切って文面を考え、いざNTTに電話。しかし、その文面を伝えるのは恥ずかしいもんだ。
「えーとですね。『はち切れんばかりの』」
「はい。『ハチキレンバカリノ』‥‥」 「えーと、『夢と希望と』」 「はい。『ユメトキボウト』‥‥」 「あのう『股間を』」 「はい?『コカン』ですね」 「あっ、はい。そうです『コ・カ・ン』です」 「続けてください」 「すみません。『握りしめ』」 「『ニギリシメ』‥‥」
とまあ、受付が女性だったこともあり、電話口で赤面し、汗をかくはめとなった(註1.)。今はメールでも受け付けるそうで、今度はファクスにしろメールにしろ、文章で申し込もうと決意した。
ところで電話帳には「お祝い、お悔やみ電報の文例」というのが載っている。
文例は「結婚」「出産」「卒業・卒園」「入学・入園」「お悔やみ」「緊急」など31分野にわたり、173の文例が示されている。分野には「クリスマス」とか「出演祝い」というのまであるのにはびっくりした。そして笑えたのは文例の方。
「結婚」の1097番を見てみよう。
「ご結婚おめでとう。最近は、『飲もうゼ』の誘いがないので、もしやと思っていました。今度、花嫁さんを交えて三人で飲みましょう。いつまでもお幸せに」
うわ!こんなくだけた調子のまであるのか。
「出産」の1921番。
「待望の赤ちゃんのご誕生おめでとう。母親業の先輩として一言。『大事にしすぎないように。神経質に扱わないように』。でも、かわいいのよね。もう一度オメデトウ!」
うーむ。いかにも若い母親にありがちな、こそばゆい物言いではないか。
ついでに「誕生日」の1760。
「お父さん、お誕生日おめでとうございます。ちょっと働きすぎじゃないですか。たまにはお母さんとのんびりと旅行でもして、骨休めしてください」
うーん。なんて親孝行な子供なんだ。電報を受け取った父親は涙があふれてしまうに違いないぞ。まさか要領のいいバカ娘が「(大事な金づるだしねえ)えーとぅ。1760お願いしまーす」とカラオケの選曲でもするようにクサイ文面を選んでいるとは夢にも思うまい。
「お悔やみ」「お見舞い」「緊急」にはさすがに
「おらあ残念だ。あんないい父ちゃん死んじまってよ。通夜には行けねーけど、遠くから冥福を祈るぜ」
なんてのはない。極めてオーソドックスだ。当たり前だけどね。
これからのメール社会。電報代わりにメールでお祝い、お悔やみというのも増えてくるだろう。私は寡聞にして聞かないけど、もしかしたらもう既に、「お祝い、お悔やみメール文例」というソフトやサービスはあるのだろうか。ないとしたら、いつかだれかが必ずやるだろうな。
できれば「すまん。きょうは忙しくてレスできない(註2.)。明日にはきちんとしたメールだします。あなたの紀生より」というのが、文例0001番にほしいなあ。 (佐藤 紀生)
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註1.:汗をかくはめとなった
・赤面し汗をかいたとしても、とにかく自分のおやじギャグをむりやり押しつけるのりおくんではあった。結婚式会場が寒さに包まれたことは想像に難くないぞ。
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註2.:忙しくてレスできない
・のりおくんは、自分のメールが無視されると怒るくせに、人からのメールは放っておくため、いつも怒られてるらしい。(この項:あずみ)
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