2/6/2000 up   ホーム  インデックス

pin かゆみの甘さ




夢というには余りにも情けなく、願望と表現するには悪趣味で、劣情と自ら卑下したくなるような、そんな密やかな思い‥‥。色恋沙汰に限らず、人には一つや二つあるのではないだろうか。
私の場合は、まず熱帯雨林の中で行方不明になる。
 ジャングルをさまよう。水と食料はたっぷりある。その間は風呂に入らないのはもとより、下着を含め着替えは一切できない。それでなくとも「多汗な性質」。汗と皮脂どろどろのぐちょぐちょで、悪臭ふんぷんで蠅がぶーん、巨大なやぶ蚊がぶっす、ぶっす、頭にはシラミがわく、靴も脱がないので水虫になる、陰部は当然タムシが広がる。あせも、花粉症も併発。もう全身がかゆいのか、かゆみが全身なのか分からないほどの状態。理想としては、ぜひしもやけも加わってほしい(註1.)が、気候的に難しいのであきらめる。もちろん、夢だから毒蛇にかまれたり、マラリアに罹ったり、ましてや餓死しては意味がない。差し迫った生命の危険はないという条件を付けよう。
さて、さまようこと3ヶ月。できれば、その間、同じく遭難した見目麗しい女性と、なさぬ仲になる。ところがオウマイガッ!彼女から、なんとクラミジアをうつされ、ついでに尿路感染症まで患う。うはっ。
そして、ここからが肝心。病院に収容された私は、検査、各種治療が始まる。不潔の極み、髪も髭も伸び邦題、しかも全身がぼりぼりのかゆみのデパート状態。3ヶ月ぶりに風呂入って、垢落として、髭剃って、そして治療が始まる。その課程をじっくりと味わいたい。あああよだれが出そうだ。
かゆみが全身にくまなくあったら、死にそうなくらいつらいだろうな。でも、経験してみたい。蚊に食われたところを思う様かきまくる時の快感、少々血がにじんでも、ボリボリかく、あの痛がゆい快感は実に素敵だ(註2.)。治療だから、そうはいかない。そのジレンマも楽しみたい。かゆみフェチなのかもしれない。
それにしても「かゆみ」というのは奥が深い。医学的にもかゆみのメカニズムははっきりしてないそうだ。
「痛がゆい」という言葉があるとおり、痛みにはならない違和感という感じかな —— と素人は愚考するが、どうなんだろうか。痛みは生体の防御反応だという。かゆみで、生命の危機を感じるというのは思いつかない。
胃があまりにもかゆいので、医者にいったら余命半年 —— という話も聞かないし、陰部のかゆみを放置しておいたら、翌日、大事な部分が腐って落ちていたなんてのもないような気がする。ジンマシンが全身に広がって、とてもいやな気分になったことはあるし、かゆみの中にはあなどれないものもあるのだろうけど。
ただ傷が治りがけの時の、傷口のうずきというか、かゆみというのは、なんか実にいいもんだ。さすがにその時は「かきまくる」なんて荒技はしない。そっと傷口をポンポンと軽く叩いて、かゆみを収めるという、これまた味のある風情がある(註3.)
中島らもの本のタイトルに「頭の中がかゆい」というけだし名文句があった。私も時折、筋肉の中がかゆいという経験がある。「ああ俺も」という人がいないので、共感を分かち合ったことがない。だれかいませんか?
さあ、いまから耳掃除して、孫の手で背中をかきまくろうっと。

(佐藤 紀生)



註1.:ぜひしもやけも加わってほしい
・ついでに、蛭に吸われて表皮に穴が空き、巨大ブユに噛まれて表皮にあながあき、吸血バエに表皮を噛み切られて、じくじく血でもしたたらすといいぞ。って、それじゃ痒いどころではないか。

註2.:痛がゆい快感は実に素敵だ
・うーん、アトピーの強力な痒みを忘れてもらっては困るぞ。なにしろ、表皮を突き破るくらい掻きまくっても痒みがおさまらず、血がじくじくにじみ出てもまだかきむしるほど痒いことがあるのだよ。痒いより痛い方がましって感じ。(この項:アトピーと長いつき合いのあずみ)

註3.:味のある風情がある
・たしかに、きみの云うことにも一理ある。おだやかな痒さには、甘い感じもあるかもしれん。でも本格的なアトピーには、そういう甘さはないぞ。この際だから、のりおくんにはアトピーを移植したいもんだなあ。(この項も:アトピーと長いつき合いのあずみ)
ya1 馬鹿ミニ ya2

A Rush Of Blood To The Head / by Coldplay