12/4/2001 up   ホーム  インデックス

pin 宗教と愛




あずみ註
--- こんかいの内容には、光瀬 龍の作品『百億の昼と千億の夜』の
   “ネタバレ” が含まれています。どうぞご注意下さい。  ---











正月には神社にお参りし、お盆には仏前で祖先を出迎え、クリスマスを祝う。こんな多国籍宗教の国はほかにはあるまい。しかも純粋な信心かというと、多くの日本人は無宗教というところに分類されると思う(註1.)
宗教とは何なんだろう。死後の世界での安寧を得るために存在する —— というのは無神論者の暴論か。絶対神が存在する宗教の場合は、そんな意義付けさえ不敬なことなのだろう。
光瀬龍原作、萩尾望都の傑作漫画に『百億の昼と千億の夜』(註2.)がある。宇宙は“超越者”が実験炉で生じさせた反応という設定だ。予測に反し一部に高密度のエネルギー集団“阿修羅王軍”が生じ、炉の破壊を恐れた超越者が自然崩壊因子として宗教を注入した —— と描かれる。
また半村良の最高傑作『妖星伝』(註3.)は、江戸時代を舞台にしながら、地球を生命に満ちあふれたおぞましい星として、弱肉強食、食物連鎖、生殖のもつ原罪を、破壊を信奉する宗教集団を通して語った。
「宗教はアヘン」と言った共産主義指導者(註4.)もいたが、人民支配の口実にすぎない。絶対的なものを求める私たちの弱さであろうか。それとも神は実存するのであって、この疑問自体が無意味なのだろうか。日本で今、最も一般的な宗教といえば“愛”なのかもしれない。ほとんどの歌は恋愛至上主義を高らかに唱える。しかし愛は妄執、束縛、排他さらには憎悪をも裏に潜ませている。宗教と愛。今世界がこの二つで大きく揺れている。

(佐藤 紀生)



註1.:多くの日本人は無宗教というところに分類される
・ユダヤ教、キリスト教、イスラム教など、絶対神的な宗教観から云えばそうとらえられるかも知れないが、ふつうの日本人の宗教観は緩いけど広くて、一概に無宗教とは云えないような気がするけどなあ。

註2.:『百億の昼と千億の夜』
・光瀬 龍 著『百億の昼と千億の夜』ハヤカワ文庫JA。光瀬 龍原作 萩尾望都著『百億の昼と千億の夜』秋田書店文庫。

註3.:『妖星伝』
・半村 良 著『妖星伝』全7巻/講談社文庫。

註4.:「宗教はアヘン」と言った共産主義指導者
・「宗教はアヘン」とは、『共産党宣言』の著者カール・マルクスの言葉だが、そのあと出来たあちこちの共産党が、なんだか宗教みたいになってしまったのは皮肉だね。
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Hay Lord, Don't Ask Me Questions / by Graham Parker And The Rumour