5/15/2003 up   ホーム  インデックス

pin 無謀にして小心




このホームページのプロフィールで、自分をこう紹介している。「小さなこだわりが常に大局観に勝り、大胆にして細心を旨としながら、その実体は無謀にして小心(註1.
書いていて嫌になるが、そのまんまである。簡潔にして的確に己を表現している。我ながら見事ではあるが、情けなくもある。ついでに女房は「人生は気合だ —— を座右の銘とする体力自慢で負けず嫌いの妻」。こちらもまごうことなき真実なのが悲しい。
心理学用語にファイト・オア・フライト(闘争か逃走)というものがある。動物はのっぴきならない状態になると、どちらかを選ぶという。人間も同じだ。「窮鼠猫を噛む」ということわざもあるとおり、追い詰められて破れかぶれになることもあるし、精神的なプレッシャーが強すぎると妄想へと逃げ込んでしまうケースもある。
世間はやたらと「闘う」姿勢を美化して、逃げることをよしとしない風潮もあるけど、それは強者の論理だと思う。座右の銘にしたい「逃げるが勝ち」(註2.というナイスな言葉もあるし、勝負ごとは引き際の判断こそが最も難しいと自己弁護している。まあ私の場合は、無意味につっかかり、勝ち目がないと分かると、しっぽを巻いて退散するだけなんだけど…。
そういうチキンハートな人間だからか、今トレンドのパニック障害(註3.(この間、長島一茂もそう告白していたなあ)を十五年以上前にきちんと経験している。とにかく突然、心臓がばくばくし、頭にカーッと血が上り、息が苦しくなる —— というのが私の症状。自律神経の暴走状態に加え、死への恐怖感で居ても立っていられなくなる。
しかも何の脈絡もなく「こんちわ!」てな風に、人の都合を無視していろんな場面で現れるからタチが悪い。十分から十五分もすれば徐々に落ち着いて来るとはいえ、その間の心許ない気分は何度体験しても慣れない。医者から処方された精神安定剤が幸いにしてよく効いた。今でも肌身から離したことはない。
この病気は悪循環が怖い。新幹線乗車中とか、おいそれと脱出できない状況などに置かれると今でも不安が増す。「逃げられない」「今発作が来ては困る」「来ないでくれよ」「頼むからね」と言っているのに、「お邪魔かしら?」と来るんだものなあ。一番、ひどい状態だったときには観覧車に乗っていて、飛び降りたくなったことがある。
いわゆる予期不安というやつ。メカニズムは簡単で、不安が発作を呼び起こし、閉鎖空間など発作が起きた状況が不安材料となる ——と、まさに小心者を陥れるには絶好のワナなんだよねえ。
当時、仕事が徹夜続きで「逃走」できない状況が病気の引き金になったのだと思う。それにしても十五年前の当時は病名なんて無かったし、医者には「命汚い」という表現をされ(註4.、その方がショックだったりしたなあ。
こういう不安定さがあるから、独自の表現もできると今は強弁している。確かに「大胆にして細心」で、闘争心にあふれた人間なら、こんなひねこびたコラムは書けないと思う。
にしてもだ。おれの対極にいるような女房はこう言う「私だって案外繊細なんだからね」(註5.。それは断じて違うぞ。

(佐藤 紀生)



註1.:無謀にして小心
・なんだか芸術家みたいでかっこいいかも。野坂昭如さんなんか、無謀にして小心の典型だな。

註2.:「逃げるが勝ち」
・のりおくんの逃げ足が速いことは、わたしが保証します。このやろー、と思った時にはすでに逃げてるなんてことが幾度あったろう。

註3.:パニック障害
パニック障害ってのがあったのか。いやあすまんねえ、いつもパニックを引き起こすようなことばかり云って。

註4.:医者には「命汚い」という表現をされ
・お、これもいまはやりの「ドクター・ハラスメント」のはしりだね。ほんと、医者って権力者だから暴言はくよなあ。きっちりクレームつけることが大切と思うけど、なかなかそうもできないしねえ。

註5.:「私だって案外繊細なんだからね」
・うーん、このコントラストがすばらしい。のりおくんは、いい奥さんを得たよなあ(以上:あずみ)

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