pinあきの受験勉強大作戦
(佐藤家の日常から17)
yoko
yoko



今日も元気なあき

自宅から学校へ向かう下り坂、マイクを握りしめる仕草で、毎日元気良く歌を“高吟”しながら登校するあき。台所の窓から、その後ろ姿を腹を抱えて笑う、ガイとばーさん。最近は椎名林檎の「ギブス」を明るく歌い上げる。
「明日のことは判らない だからぎゅっとしていてね ダーリン」#(1)
って歌詞をるんるんとスキップして歌うあき、14歳の夏である。

そんなあきも受験生

ようやく人並みに勉学への意欲が高まりつつあるこの頃、いつもなら5分、カラスの行水のあきが1時間近くも風呂から上がってこない。昨夜も柄にもなく自室で勉強していたので、風呂で寝ているのではないかと心配したガイが、あきの様子をうかがうため風呂場へ。
脱衣所に電気がついていて、中からばーさんの大声が。不審に思い脱衣所のドアを開けると、老眼鏡をかけたばーさんが一人本を読んでいるではないか。見れば、東京書籍「歴史」の教科書。
何と、あきはばーさんに教科書を朗読させ、湯船でそれを聞いていたのだ。
あきれるガイ。受験生の立場を主張するあき。間に入って戸惑うばーさん。善意の第3国を挟んで、ミサイルを撃ち合うような、人迷惑な不毛バトルは5分ほど続いたらしい。
かつて石巻にいた時、トイレの外で質問するガイ、用を足しながら答えるあき —— という、とんでもない試験勉強#(2)を見ていたとはいえ、気のいいばーさんを最大限活用して受験勉強に励む孫なんて、「孫」がヒットした世紀末、「ちゃっかり」という形容詞がこれほど当てはまる光景はない。歴史の教科書には載らないだろうけど、佐藤家の歴史に残ることは確かだ。
ちゃっかりあきのおかげで、おれも既に携帯電話をトイレに沈める#(3)というとばっちりを受けている。今後、受験までの数ヶ月、あきが周囲にかけるであろう迷惑を考えると、暗澹たる気分#(4)になるのであった。
すっかりのぼせ、真っ赤な顔して風呂場から上がって来たあき。果たして、勉強の成果は上がったのだろうか?

( のりお )

yoko
yoko

あずみによる脚註
あいかわらず、ちゃっかりあきは健在だね。ばーさんも歴史の勉強ができていいではないか。
1.) ぎゅっとしていてね ダーリン:
初稿では「本能」を歌っていたあきちゃんですが、ちょっとあれなので「ギブス」を歌わせることにしました。そのぶん文章がピンぼけとなっております。
2.) とんでもない試験勉強:
のりおくんが石巻にいたころ、夏風邪でお腹をこわし寝込んだときの逸話。やっぱりここでも、あきはお母さんに歴史の問題を出させて自分が解答すると云う、ちゃっかり型の試験勉強だった。歴史はちゃっかりと覚えるものなんだろうか。詳しくはこちら▼をどうぞ。
3.) 携帯電話をトイレに沈める:
あきは、あのお母さんが歯を磨く▼トイレの中に、受験勉強用のメモを張りめぐらしているらしい。ある日、床に落ちていた張り紙を拾おうとしたとうちゃんの胸のポケットから、携帯が便器の中に見事にダイビングしたらしい。新しい携帯なんぞを買わされるはめになったのりおくんは、急な出費もさることながら、使い方を覚えデータを入れるのに死ぬほど苦労したらしいぞ。いやはや大変ね。
4.) 暗澹たる気分:
暗澹たる気分とか云いながら、実はいいネタが拾えそうでちょっと嬉しそうなのりおくんではあった。




チャッカリの極意は、チャッカリだと意識しないことなんだろうな。