pin28回転してタコ教頭
(佐藤家の日常から31)
yoko
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あきは気仙沼演劇塾「うを座」#(1)に参加している

ついこの間、気仙沼市民会館で開かれた子どもミュージカル「海のおくりもの — 竜宮伝説'36」に出演した。竜宮伝説をベースに、海や森の大切さ自然の尊さなどを、子供たちが魚やネコなどに扮し、演じるストーリーで、役者として活躍している壌晴彦さん#(2)が脚本、演出をしている本格的なミュージカルで、あきも連日練習に汗を流し、「タコ教頭」というわき役を無事に務めることができた。
当初はセリフの少ない「ヒトデ」役だったが、プンプン怒ってばかりいる教頭という役回りが、あきにぴったりと壌さんが判断したのか、本番の半月前に突如、役の変更となった。

役変更の3日前のこと

仕事を終え、家に帰り、台所に行くと、あきがテーブルにぐったりと上半身を投げ出している。「どうした」と聞くと、「気持ちが悪い」と言う。「風邪か」と聞くが、返事があいまいだ。まあ大したことはないだろうと、伸びているあきを横目に夕飯を食べた。そして今度はガイに聞いた。「どうしたんだ」。
ガイの説明では、飯を食べ終えて、テレビを見ていたあきが突如台所でクルクルと回転を始めたという。スケート場でもあるまいし、何を考えているのか。そして28回転したあきは「気持ちが悪い」と言って、へなへなと床に座り込んだというのだ。普通の家庭なら、異常事態なのだろうが、佐藤家では一々驚いてはいられない。
やや具合の良くなったあきに再度、理由を尋ねた。その答え。
「何かさあ、30回転すると人生変わるような気がしたの」
「…」。ガイ「…」。ゆーた「…」。ばーちゃん、目が点。

その後あきのおバカな人生に変化はないが、うを座での役が変わった。その意味では「回転28号」は多少の変化をもたらしたのは確かなようだ。
タコ教頭役はセリフが多い。しかも大声でプンプン怒る役だ。
「コンベンションセンター、始まって以来の不祥事ですぞ!」
などと、怒りまくるのだ。
あきは課題ができると、前向きに一生懸命になるタイプで、そこがいい面でもあるのだが、当然迷惑なことも副作用として生じる#(3)。舞台練習で「あき!それじゃ『歌のお姉さん』でしょ」と、演出補の先生から怒られ、ヘコんで涙したこともあるが、持ち前の負けず嫌いの性分から、お母さん、ばーちゃんを相手にセリフの練習に邁進。自分の部屋、茶の間、そして定番のふろ場と、しかも大声でセリフを叫ぶもんだから、ガイは慌てて、後ろのお宅に事情を説明しにいったりと、まあいつものように周囲を巻き込んでの大変な騒ぎであった。

その公演だが、あきは見事な成長ぶりを見せ、みんなも頑張り、感動的な舞台になったと思う。11月には同じ演目で、群馬で行われる国民文化祭#(5)に参加するという。
そして今度、壌さんはあきに優しいネコの母親役に挑戦させたいと指示したらしい。それ以来、佐藤家ではあきのネコ撫で声が日々、響いている。ネコ撫で声と、ガイとの日常のケンカでの怒声。
ああ!じいさん!天国から見ても面白いか?

( のりお )

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あずみによる脚註
あきちゃんの教頭先生はぴったし見事だったけど、ネコのお母さんってのも面白そうだなあ。母性を爆発させるあきちゃんってのは見てみたいぞ。
1.) 気仙沼演劇塾「うを座」
1998年に結成された、気仙沼圏の子供を対象にした演劇の塾。僻地なのに、なぜか中央の一流のプロの指導を受け、本物のミュージカル(お金がかかる)をやっている、奇跡のような集団。
2.) 壌晴彦さん:
劇団四季出身。フリーの俳優・演出家。俳優として海外公演も多く「テンペスト」「卒塔婆小町」(1990年エジンバラ国際演劇祭批評家賞)等、評価が高い。1994年、ロイヤルシェイクスピアカンパニープロデュースの「ペールギュント」に唯一の東洋人キャストとして参加。
演出では1997年「平野啓子語りの世界『鶴八鶴次郎』」(文化庁芸術祭大賞)など。
声優として「ライオンキング」「美女と野獣」「封神演義」など。
文化学院講師。演劇研究室「座」主宰。
リアスさんりく気仙沼大使に任命されるなど、気仙沼との関わりも深い。(海のおくりものパンフから)
3.) 迷惑なことも副作用として生じる:
「あきの受験勉強大作戦」などを参照してね。
4.) 国民文化祭:
文化庁の肝煎り、県もちまわりで開催するもので、地方の様々な文化活動に、大きな発表の場を与えようと云うものらしい。2001年は群馬県で開催される。そのなか、11月に新田町で開催される「新田ミュージカルフェスティバル」にうを座が「海のおくりもの」で出演することが決定している。




じゃあ、タコは誰がやるんだろう?