pinちゃっかり母の日プレゼント
(佐藤家の日常から65)
yoko
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あきは、親元を離れ、一人東京で学生生活を送っている。



母親のガイとは気仙沼にいるときはもちろん、今でも会えば「一日一善」ならぬ「一日一戦」というか二戦も三戦も口先バトルを繰り広げるナイスな関係だ。
まあ仲がいいからけんかするのであって、毎年、律儀に「母の日」にはプレゼントを送って寄越す。2年前のミニバラ#1.のときも笑ったが、わが家の天然娘は20歳を超えても、なおその「特技」を磨いている。人によっては迷惑千万なのだろうが、まあちゃんと「笑える」ところに着地するあたりは素晴らしいとしか言いようがない。

今年もあきから小包が届いた。中身は手作りイチゴジャム。あきは野菜ソムリエの資格を持っているし、昔から果物には目がない。もちろんガイのためであるが、自分の好みもちゃっかりと踏まえるあたりが実に父親譲りでリーズナブルである(まあ私の場合、母の日のプレゼントではもちろんないけど、自分好みのロックのCDをプレゼントして、結局自分の物にするという、せこい・・もとい、ずるい・・・もとい、えーと実に深い哲学的な方法#2.なのであるが)。
ジャムはおいしかったが、写真のようにプレゼントには付録が付いていた。


jam



「Message For Mother」とハートマークが。
そこには、切っても切れない強力なDNAで結ばれたガイへの感謝の言葉があった。ガイもご満悦の表情で愛娘のメッセージを読んでいたが、その表情が徐々に崩れ、ついには「ふふふふ」と笑い声が。
そこでガイがおれに見せてくれたのが、メッセージに添付されていた10枚のカード。

「どれどれ」


 cards



「何々?」

「肩たたき券(3回有効)」が2枚か。ふむ。
そして、えーと「お手伝い券」「1日フリーパス券・家のことは忘れて好きなことして!」「お洗濯手伝います券」「1日つきあいます券」「ゆっくりお話しましょう券・グチも聞くよ!」「明日、朝寝坊していいよ券・朝ごはんは私がつくるよ」「なんでもしてあげる券・ワガママ言っていいよ!」
そして何も書いて無く、好きなことを書き込める「万能券」#3.

うーむ優しい娘じゃのう…。うん、うん。
「洗濯もしてあげるし、朝寝坊してもらって、お母さんのために朝ごはんもつくるーかあ。いいことだ。うん、うん。夏休みか、帰省したときにやるのかな?」

「うん?」
何かあきが黒のボールペンで添え書きしている。


card _2



「………。」
あのう、あきちゃん。質問です。

「FROM お父さん」

って何でせうか?

「私の代わりに、お父さん よろしく ハートマーク」
これはどう見ても、どう解釈しても、どう判断しても、どう翻訳しても、つまり
《あきちゃんから、父・佐藤紀生殿への指令書》ではないかと?
そこで全部の《指令書》を見た。

「肩たたき券」の1枚は、私あてだが、もう1枚には「上手なゆーたにお願い」と弟への指令もある。「お洗濯手伝います券」もゆーたへだ。
つまり、私とゆーたが、離れて暮らすあきの代理人としてガイを手伝いなさいというプレゼントなのね(笑)うーむ実にちゃっかり、もとい、しっかりしているのである。

「あれ、これは、あき自身のプレゼントだ」


card4



うはは!
「これは券がなくても、電話でも、もちろん会えば、のべつ幕なしに、どーだれ、こーだれと話しているじゃん!」
しかも「甘いものでも食べながら」って、いつもじゃん!
でもガイは一番、嬉しそうな顔をしたのが、このカードであった。やはり母娘。楽しく、たまにはケンカもしながら、お喋りするのが、楽しいんだろうなあ。
と、父親は想像した次第。ちょびっとやけたけど、父の日にもちゃんとプレゼントを忘れない愛娘に、父親はどうあがいても勝てないのであった。


card4



あきちゃん、サンキュー!今日も、楽しく晩酌してます。
そのうち、ゆーたの野郎#4.が「お父さんと飲みに付き合います券」とか寄越すかな?
まっ、男同士の場合は、気持ち悪いよなあ。いっしょに飲みに行ける日が来るのは、楽しみに待ちたいけどね。


( のりお )

yoko
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あずみによる脚註
母の日のプレゼントの多彩なのに比べて、やっぱ父の日はさみしいのお。ま、しょうがないけど。
1.) 2年前のミニバラ:
プーさんとミニバラの日参照。写真では、ミニバラよりプーさんのほうが目立っている。
2.) 哲学的な方法:
よくわからんが、それはどう好意的に解釈してもプレゼントにはなっていないのでは。地獄の閻魔様は、そういうのは○にカウントしないと思います。
3.) 「万能券」:
ガイかあさんは、万能券になんて書き込んだのかな。お父さんからダイヤの指輪、と書いても無駄だから、来年プレゼントして欲しいものとか書いておくといいかも。
4.) ゆーたの野郎:
ゆーたは今年、母の日には花を、父の日には、ヱビスビールの新発売のグリーン (ヱビス 〈ザ・ホップ〉) をプレゼントしてくれた。このビールは本当にうまかった。 (この項:のりお)





手作りイチゴジャムとは、あきちゃんも進化しとるのう。