pinトコ姉ちゃんのカージャック
(佐藤家の日常から70)
yoko
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ガイのすぐ上はトコ姉ちゃんという



トコ姉ちゃんは、ガイの骨格、性格に柔軟剤を振りかけ、弱火でコトコト煮込み、まろやかにした感じで、基本的な資質がとてもよく似ている。まあ姉妹だから当然だが、ガイの強化バージョンでなかったことだけは神様に感謝せねばなるい。
あきを一ノ関駅まで送る折、「帰り暇だから」という理由だけで、無理矢理トコ姉ちゃんを車に同乗させていく妹・ガイ。「いいのか?」というおれに対して、「トコ姉ちゃん、どうせ暇だからいいの」とのたまう妹・ガイ。そしてあに図らんや、何度となく妹の横車に付き合う姉。
強化バージョンではなくて、逆に「リンゴとハチミツ」たっぷりのまろやかバージョンで本当に良かったと思う。だからこそ、ウマが合うのかもしれない#1.

ある日。ガイが笑いながら帰って来た。目が「おれは鉄兵」#2.になっている。さすがに、ゆーたの母である。あっ、例えが逆か(^_^;

開口一番。

「トコ姉ちゃんの話、聞きたい?」

来た。ガイ得意の、相手より常に優位なポジションを確保しようというフックだ。

「別に」
おれも長年の修練のたまものだ、エリカ様#3.で臨戦態勢を素早く整えた。

「ふふふ。笑った、笑った。ふふふ。ああ、おかしい!」
とジャブで揺さぶるガイ。

「……」
つまらない話なら聞かないぞーとブロックを固める。

「トコ姉ちゃんね、よその人の車に乗り込んでしまったんだって。全く気付かずに。どう思う? あり得ないちゃ。ふふふ。みんな驚いたって。シートベルトまで締めて、そこでやっと自分の車じゃないって気付くなんて。あはは!」

うーむ。いきなり鋭いストレートだ!

話はこうだ。

その日、トコ姉ちゃんは、愛車のトヨタ1300cc汎用コンパクトカーに旦那のヒロシ義兄さんを乗せ、買い物に行った。そして、ヒロシ義兄さんを助手席に残し、単身コンビニへ入る。しかし目当てのレギュラーコーヒー缶がなく、ほどなくして戻ってきた。
その間、わずか2分ほどだが、何とそこにトコ姉ちゃんの愛車と全く同じ車種、色の車が隣に駐車。その車には家族4人が乗っており、運転してきた男性だけが車を降り、店内へ。
入れ替わるように、店を出たトコ姉ちゃんは、迷うことなく、その他人様の車に乗車。
シートベルトまでしっかり締めたところで、助手席にいるはずのヒロシ義兄さんに向かって「コーヒー、無いって」と言ったら、そこには見知らぬ女性が!
びっくりする、トコ姉ちゃん。

相手はもっとびっくりした表情をしていたという(当たり前だ…笑)。
後ろには見知らぬ子供までいる。
混乱するトコ姉ちゃん。窓越しに、似たような車の中で、手を横に振りながら「違う!違う!」と大きく口を動かしている、マイ・ダーリンを発見。ここでようやく、自分の置かれた立場に気付いたガイの姉・53歳。
確かに、運転席から眺めるパネル周りなども微妙に違う。ハンドルの色も違う。やっと我に返ったガイの姉・血液型O型。
「すっ、すみません!」と平謝り。「全く気付きませんでした」

すると助手席の女性は
「ドアを開けて、乗り込んで来たときから何度も『違いますよ』『お間違えですよ』とお話したんですが…」
と言うではないか。

事後、ガイへのトコ姉ちゃんの説明。
「なんかラジオでアナウンサーが話しているような感じがしただけで、耳に入ってこなかった」

その場は、ヒロシ義兄さんも車から降りて来て、謝罪。相手のご家族も穏やかないい人たちで、最後は、みんなで大笑いとなったそうだ。トコ姉ちゃんに、悪気が一切ないことは相手も理解してくれたんだと思う。よかった、よかった…。

しかし他人がいきなり乗り込んできて、しかも聞く耳持たず、シートベルトまで締められたら、そりゃあ驚くだろうなあ(笑)#4. 相手のご家族にとっても2008年正月の珍事として、語り継がれていくだろう。


ガイの見事なストレートを浴びたオレだが、ここで反撃に出ねばなるまい。

「まさか、おまえもそんなドジないよな?」
とカウンターを返す。

「まさか!あるわけないっちゃ!他人の車に乗り込むなんて。そこまでは…」
ふと、ガイのガードが下がる。
何かある! すかさずワンツーを入れる。

「ほら、同じような間違えしたと白状しろよ」
「そうえいば、スーパーの駐車場でね。キーレスエントリーでドア開けようとしても、開かないことがあったの。電池無くなったのかなあ? と思いつつ何度か挑戦しても駄目。でも近づくとドアロックが『カタ』『カシャ』とオンになったりオフになったりする、音が聞こえてきたのね。おかしいなあ? と思ってもドア開かないの。そしたらね…うふふ…」
やばい何かアッパーを食らいそうな雰囲気がするぞ。

「音が真後ろから聞こえていたの。振り向いたら、私の車があったの。うふふふ…」

そう来たか!ガイは全く同じ車種・色の車に向けキーレスエントリーの電波を放射。それが反射して、真後ろに駐車してあった愛車のドアロックが、律儀にオン・オフを繰り返していたのだな。

いつかガイも他人様の車に乗り込む確率は高いと思うぞ。

えっ?おれ?おれ様にはそんなドジはないぞ。
まっ、一度だけ全く同じスターレットが、たぶん誰かのいたずらだと思うが、おれ様の車の近くにあって、キーを差し込んでもドアが開かず、駐車場の係員を呼んだことがあるくらいだ。全然、大したことじゃない。
途中で、自分のミスに気付いたが、「キーが壊れたのかもしれないなあ」「女房に合い鍵持ってこさせます」「ご迷惑かけました」と、その場をとりつくろったりは断じてしなかっぞ。

何でこの世の中には同じ車がこんなに多いんでしょうか?


( のりお )

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あずみによる脚註
間違えるのはしょうがないとしても、他人が座ってる車に乗り込んでも気づかないってのは凄いよなあ。
1.) ウマが合うのかもしれない:
この、姉妹の絶妙な連係プレイは「補完しあう姉妹▼」をご覧ください。
2.) 「おれは鉄兵」:
ちばてつやの傑作マンガの主人公鉄平は、愉快な悪巧みを考えたりするとき、三日月を伏せたような目になるのです。ちばてつやホームページトップ▼のイラスト中央の剣道少年が鉄平。ゆーたも少年時代、エッチなことを考える▼とそんな目になりました。
3.) エリカ様:
女優沢尻エリカは、その振る舞いから女王様と呼ばれるようになっていたが、2007年、自らの映画の舞台挨拶を不機嫌な振舞で通し、批判を浴びた。それから、傲慢尊大に振舞うこと、不機嫌に「別に」という感じで無関心を装うことをエリカ様と云うようになった。
4.) そりゃあ驚くだろうなあ(笑):
たしかに驚いたろうが、お互いに家族が乗っていてよかったとも云える。どちらも一人だったら、トコ姉さんそのまま間違った車を運転して出て行く可能性あったよね。コンビニで自分の車が消え、自分のと同じ車種の他人の車が残されていたら、心底驚くだろうな。つうか、そうなったら犯罪になっちゃうか。




間違って他人の車を運転して事故ったら、保険はどうなるのでしょうね。