pin教科書救出大作戦
(佐藤家の日常から49)
yoko
yoko


ゆーたの(お姉ちゃん)観察日記


この間のことです。お姉ちゃんはお父さんの部屋での勉強に飽きたのか、今度は台所で勉強していました。
お姉ちゃんは「場所を変えて、気分を一新してるの」なんて言いますが、お父さんも、お母さんも、おばあちゃんも「汚れたから次の場所に移っているだけ」という意見で一致してます。ぼくもそう思います。お父さんいわく「あきの焼き畑学業」#1.。さすがお父さんです。ギャグセンスが最高です。意味はよく分からないけど。へへへ。

その台所も2日目になると、あっちに数学の参考書、こっちの英語の教科書というふうに、散らばって、床は消しゴムのかすとシャープペンの折れた芯だらけになっていました。いつものことです。お父さんは食卓にわずかに残されたスペースで、きゅうくつそうに朝ご飯を食べていました。
そのつど、おばあちゃんが文句を言いながらも片づけていましたが、3日目の朝、ついにおばあちゃんも怒ってしまいました。口をすっぱく「片づけてから学校へ行きなさい」と言っていたのに、お姉ちゃんが片づけずに学校に行ったので、さすがのおばあちゃんもキレてしまいました。いつも優しいおばあちゃんが、お母さんのように頭から湯気を出して怒ったので、びっくりしました。
いきなり、おばあちゃんは、お姉ちゃんの教科書とか参考書をガサッと集めると、ドサッとごみ箱に捨てました#2.。ぼくは「えっ!」と思いました。「それ、お姉ちゃんの…」と言いかけると、おばあちゃんは「片づけないなら、捨てるって、あきに言っていたからいいの!」と、これまたお母さんみたく鋭い眼光でぼくをにらみました。ぼくはビビリました。超ビビリました。ぼくはこの日学校休みで、いつもなら、おばあちゃん特製のアイスコーヒーで優雅な朝をマンキツしているはずなのに、お姉ちゃんのせいで、とてもブルーな朝になりました。これが本当のブルーマウンテン。意味分かんねー。
でも。でもと考えました。もしこのままだと、本当にお姉ちゃんの教科書や参考書がごみに出されてしまう。お姉ちゃんが100%悪いのは分かっていても、ちょっぴりかわいそうな気がしてきました。そこでおばあちゃんが、外で洗濯物を干しているときに、こっそりとごみ箱から教科書と参考書を出してやりました。そして茶の間にある、これまたお姉ちゃんが積み重ねていた参考書や教科書の山の中、その真ん中へんに入れてやりました。
後で聞くと、おばあちゃんも、少しやりすぎたと思って、ごみ箱から教科書を出そうとしたら、捨てたはずの教科書がないのであわてたそうです。でも少し探すと、ぼくがまぜた茶の間の教科書の山から、捨てた教科書を見つけだしました。こうして、ぼくの教科書救出大作戦はバレてしまいました。

その夜。おばあちゃんとお母さんは、姉思いのぼくをとても、とてもほめてくれました。お姉ちゃんも一応感謝してくれました。でもお父さんだけは「ゆーたの教科書もどさくさに紛れて、ごみ箱に入っていたら、もっとドタバタして面白かったのに」と無責任なこと#3.を言ってました。ひどい父親です。でもぼくもちょっとだけ、そんな気がした梅雨の一日でした。えへ。

( のりお )

yoko
yoko

あずみによる脚註
あきちゃんって、基本はきれい好きなんだよね。おれなんかは、きれいなところじゃなんだか落ち着いて勉強できないよ。っつうか、勉強なんてしなかったけど。
1.) 「あきの焼き畑学業」:
雰囲気は分かるけど、火を放つ(=片付ける)という重要な仕事をあきちゃんがやってる訳ではないので、ちょっと違うかも。しかし、高校受験のときはジプシー受験生だったあきちゃんは、いまやもっとラジカルになってるのか。詳しいことは、あきの受験勉強大作戦▼ちゃっかりあきの英会話で東京ツアー▼佐藤家の発掘問題▼あきの巣穴 ▼、を参照してね。
2.) ドサッとごみ箱に捨てました:
おおお、あの温厚を絵に描いたようなばあちゃんがそこまで怒るとは、おれでもちょっと恐いかも。
3.) 無責任なこと:
おれでも、ちょっとはそう思うから、のりおくんなら切実にそう思ったろうな。




あきちゃんがまたも受験生とは、月日の流れのはやいこと。