pinきかないDNA
(佐藤家の日常から86)
yoko
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今年4月、名古屋に移籍したあき。


仙台時代と同じように、ガイとは毎日電話で「あーでもない、こーでもない」という近況報告をしているらしい。
そして恒例の不毛なバトルもたまにはあるようで、「トム&ジェリー」状態#1.は、この「佐藤家の日常」を書き始める前から、まさに 佐藤家の日常 であった。

この間。あきと電話していてガイは、あきから怒られたという。

「お母さんて、人の話聞かないよね」

そしてその後、

「いえ、聞いてます! 」
「聞いてません!! 」

というバトルがあったことは容易に想像がつく。そしてお互い

「あきって、きかない! 」
「お母さんって、きかない! 」

と思ったに違いない。
だが、この場合の「きかない」は広辞苑には載ってない。

「利かぬ気」「利かん気」という言葉はある。「利かん坊」もある。利かん気とは、勝ち気という意味だ。
気仙沼でよく使う「きかない」は、「きかぬ」の変形なのだろうか。男や、高齢の方が使う場合「この、わらし、きがねえごと」というように、「きがねえ」となる。「きかない」は、その丁寧語バージョンとなるようだ#2.。「勝ち気」「負けず嫌い」「意地っ張り」という意味も含んでいる気がする。

「きかない」同士が、「聞かない」バトルを繰り広げた後、ガイは温厚な姉、トコ姉ちゃん#3.に電話して、ことの顛末を話したそうだ。
するといつもの柔らかなもの言いのトコ姉ちゃんにしては、「きかない」口調で

「ほんと! あんだ、人の話聞かないよね」

と怒られた。
あきのマシンガントークで手負いとなり、援軍を求めたのに、挟撃されてしまった。ガイ同情するぞ (うそ)。

毎日、ガイとは電話しているが、その日は、翌日が休みのため、単身赴任先の石巻から自宅に戻った。
ちょっと遅めの夕食を食いながら、顛末を聞く。
腹も減っているし、テレビでは被災地関連のニュースをやっていた。

「聞いてる? 」
「えっ。ああ…。トコ姉ちゃんに怒られたんだろ。きかない、って」

とサンマの塩焼きをつつく。

「あんだって、本当に人の話聞かないよね」
「この間も…だし」
「先だっても…だったし」
「ねえ? 聞いてんの? 」

と、あき、トコ姉ちゃんに「聞かない」攻撃を受けた、その鬱憤をここぞとばかりに浴びせかける「きかない」ガイ。
しばし「聞かない・上の空大作戦」を展開して、しのいだ。

まっ、私の友も言う。
「おめ、人の話聞かないよな」#4.

ガイの友人も言う。
「ガイは、人の話聞かないだもん」

2人のDNAを引き継いだ、あきも、たぶん周囲の人から
「あきちゃん、ちゃんと人の話聞きなさいよ」
と言われているに違いないのだ。

ゆーた?
「誰に似たんだが、そうそう、あんだど同じで、ゆーたも話きちんと聞かないよねえ」
と「きかない」ガイがいつも言っている。

「馬耳東風」#5.。佐藤家の家訓にしよう#6. (うそ、その2)。


( のりお )

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あずみによる脚註
ガイが、ひとのいうことなど聞く耳もたず自分のつごうを押し付ける矛型なのに対し、のりおくんは、自分の考えに凝り固まり人の意見が入る余地ない盾型で、どっちが強いんだろうねー。

1.) 「トム&ジェリー」状態:
カートゥーン・ネットワークの看板アニメ。制作はジョセフ・バーベラとウィリアム・ハンナのコンビ。ハンナ=バーベラが1937年にMGMで最初に作ったのが、トムとジェリーの第一作「上には上がある」。それが高い評価を得、トムとジェリーをはじめとする作品がどんどん作られていき、いまに至る。アカデミー賞7回、エミー賞沢山。その他の代表作品は、「チキチキマシン猛レース」「原始家族フリントストーン」「大魔王シャザーン」など。気が強く大きいけど実は優しい猫のトムが、小さいけど頭がよく機転が利くジェリーに、いつも容赦なくコテンパンにされるんだよねー。
2.) 「きかない」は、その丁寧語バージョンとなるようだ:
一般的な「利かぬ」は動詞だが、気仙沼弁の「きかない」は半ば形容詞化している。「そんなきがねごどいうんでねえがす」(そんな強情な(我を張るような)こといってはだめですよ) なんてのが一般的な使い方だが、「ガイはきかない」だけで成立する。この場合は、ガイお母さんは、気が強く人の云うことを聞かない意地っ張りだというのが伝わる。気仙沼弁独特のビートの利いた使い方については、小山さんの本格派・気仙沼弁を参照のこと。
3.) トコ姉ちゃん:
ウクライナ系な優しいトコ姉ちゃんに関しては、「補完しあう姉妹」▼「トコ姉ちゃんのカージャック」▼など参照のこと。
4.) 「おめ、人の話聞かないよな」:
のりおくんが人の話を聞かないことは、友人たちのあいだで、完全に定着している。「あんなに一生懸命説明してあげたのに、全く何一つわかっていない。呆れた」とF氏。「だから、あれほど云ったじゃないか!! なのに、なんでそんなクソみたいなもの買って後悔するんだ!!」と憤るA氏。「もう、彼に何をいってもムダだというのは分かっています。でもちょっと悲しい」と達観しきれないT氏。つまり気が利かないのに我だけは張り常に上の空の、のりおくんには、何を云っても効き目がないのですね。
5.) 「馬耳東風」:
そんな私が、人の話を聞く記者稼業をしている。いいのだろうか?
ガイもお客様のお話に耳を傾けるコンビニでパートをしている。いいのだろうか?
あきも、人様の話を聞いて、それを皆様に伝える職業についている。いいのだろうか?
ゆーたは、どんな職業に就くのやら…。(この項は当然のりお)
6.) 佐藤家の家訓にしよう:
そう云えば「以心伝心姉妹」▼では、主語がなく述語がデタラメでも勢いで伝わるガイお母さんの奥義があったが、つまりは人の話はどうでも、自分の話は奥義で不足なく伝えることが佐藤家の裏家訓となっていく訳なのかー。恐ろしいなー。




どっちにしろ、人の話が通りにくいので、はなはだ迷惑な家系ですねー
そしてゆーたも間違いなく、人の話を聞くことが職務となるのだろうな