pinどってん
(佐藤家の日常から87)
yoko
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ある晩、熱々のサンマの塩焼きを二人で食べていたら


突然、ガイがおれに質問した。

「どってんちかもくの後って何だっけ? 」

即答しようとしたが、答えが出てこない。知っているはずなのに、ど忘れしたか。
ものすごく簡単なこと ── と右脳は直感で訴えてくる。
何か違和感がある ── と左脳は苦悩している。

「どってんちかもく」
「ドッテンチカモク」
「どっ天地下もく」

「土天地火木」

やっと右脳と左脳が握手した。

「ガイ、分かったぞ! 」
「何だっけ」
「土星、天王星、地球、火星、木星の次だろ? 」
「そうそう。なんだけっけ? 『めい』だっけ? 」
「本気か? 」
「えっ? 違うの? 」
「違う」
「うそ〜〜〜」

そう違うのだ。
だが、うそでもないのだ。

言わずもがな「すいきんちかもく」の後が「どってん」なのだ。
ご存知の通り、水星、金星、地球、火星、木星で「すいきんちかもく」、そして土星、天王星で「どってん」なのだ。

「あれ、そうだっけ? 」
「土星と天王星が、地球より太陽に近いのか? 」
「あっ」
「…」
「ふふふ。ははは。何かおかしいと思ったんだよね。でも本当にそうだっけ?#1. 今ひとつ分からないのよねえ」

しばし土星と天王星が、地球より内側を公転する太陽系の模式図が頭から離れそうにない。

「すいきんちかもくどってん」の次は、もちろん「かい」
昔は「かいめい」だったのだなあ。#2.
と今日もガイの悩みごとを解明した、頼もしい夫なのであった。


ここまで書いて、アップしてもらおうと脚注あずみに送ったら、彼がガイに聞いてもらいたいことがあるとのこと。そこで、


昨日の夜、ガイに聞いてみた。


「いいくにつくろう…」
「鎌倉幕府」
即答。#3.

「ふじさんろくおーむなく」
「えっ? 何? 知らない」
「ひとよひよにひとみごろは? 」
「聞いたことあるような、ないような」
「本気か? じゃ、ひとなみにおごれや」
「誰に? 」
「おれに」
「…」
「ルート……、だからルート5、ルート2、ルート3の解の暗記法#4.、中学の時、習ったべど」#5.
「あっ、『ひとよひとよ』は何となく、覚えているような、いないような。あとは知らない。おごれ? 分からない。富士山がろくおうむ? 」
「違う。富士山麓、オーム鳴く」

「何か、役に立つの? 」
「まあ、正方形の対角線とかさ」#6.
「その程度なら、別にいい」
「…確かに。ガイには必要ないかもなあ」

「じゃあ、すいへいのりべつぼくのおふね#7.、は……知るわけないか」
「全く」
「高校で化学習ったべ。基本中の基本だぞ。元素記号」
「えー、習ってないでば#8.。水平? お船? 」
「水素の『すい』、ヘリウムの『へい』、リチウムの『り』…」
「なんか意味あんの? 」
「最も基本的な元素からの順番。ベリリウム、ホウ素、炭素、窒素、酸素、フッ素、ネオン…」
「ベリリウム、あっ健康にいいとか。でも酸素の方が基本的じゃないの? 」#9.
「えーと、軽い順番なの」
「ふーん」#10.

「そういえば、授業中、先生に『菅原(ガイの旧姓)、目開けて寝んな!! 』と言われたことあるんだろ? 」
「ふふふ。私、先生に好かれていたからね」
「その解釈は間違っていると思うぞ」
「いいの。いいの」#11.


( のりお )

yoko
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あずみによる脚註
すいきんちかもくは、リズムで覚えさせるたぐいのもので、語呂合わせとはちょっと違うんだけど、じゃあ語呂合わせをどう覚えているかと聞いてみたんだけどねー。

1.) でも本当にそうだっけ?:
のりおくんに正解を教えてもらった後でも、さいしょに自分が云ったことがが正しいんじゃないかと心の底で思ってるみたい。どってんってのはインパクトがあるし、ちかもくってのは語呂がいいから並べたくなるのかな? いま気づいたけど、どってんちかもくってばってん荒川▼とかなり似てるねー
2.) 「かいめい」だったのだなあ。:
冥王星▼が、2006年に惑星の座を追われ、準惑星に格下げされるまでは最後が「めい」だったのだ。もっとも、1979年2月から1999年2月まで20年間、冥王星は海王星軌道の内側にいたので、我々が生きているうちのかなりのあいだ「すいきんちかもくどってんめいかい」だったことになる。このことは、ガイにきっちり教えておいて下さい(^^)
3.) 即答。:
いいくにつくろうは語呂合わせの基本だけど、佐藤家では伝統的? に歴史は語呂合わせと母子の問答で覚えるので (「ゆーただっていい国つくろうと思ってるだろ」▼「吉本おかんの敗北」▼参照のこと) ガイお母さん、歴史はけっこう出来たのね。
4.) ルート3の解の暗記法:
なんでこんなことを覚えさせられたか知らないのだが、いまだに覚えているのがおかしい。ルート2は一夜一夜に人見ごろ (1.41421356)、ルート3は人並みにおごれやおなご (1.7320508075)、ルート5は 富士山麓 (さんろく) オーム鳴く(2.2360679)
5.) 中学の時、習ったべど:
「べと」というのは気仙沼地方の方言なのだが、習っただろう? と軽く聞きながら習ったよね! と念を押している。そんなのも知らないのか? と見下している響きも入れることができる、かなり上級用法なのです。
6.) 正方形の対角線とかさ:
ガイお母さんはコンビニでバイトしてるけど、コピー機の用紙のタテヨコは1対ルート2で、用紙をどこまで半分に折ってもつねに同じ比率のいわゆるルート長方形。それがA3.A4.A5となっていくのだから、じつは仕事に役立ってるのだった。
7.) すいへいのりべつぼくのおふね:
元素記号の周期表を語呂合わせで覚える方法。わたしとのりおくんは同じ高校でS先生から、すいへいのりべつと教えてもらったのだが、一般的には「水兵リーベ僕の船そーだ間がある」など、水兵リーベが主流だったのですね。もっとも、すいへいのりべつぼくのおふね、を覚えていても、りがリチウム(Li)、べがベリリウム(Be)、ぼがホウ素(B)、くが炭素(C)など、かなり分かりにくくてすっかり忘れていた。語呂合わせとしては程度が低いと思います。
8.) えー、習ってないでば:
ガイお母さんってば、分かんないから明確に否定してるけど、高校化学で周期表を習わない訳ないんだけどね。
9.) ベリリウム、あっ健康にいいとか。でも酸素の方が基本的じゃないの?:
一般にベリリウム化合物は健康によくないので注意が必要だが、ここで健康にいいと云ってるのはたぶんゲルマニウム(Ge)のことだろう。でも、ウムしか合ってないんだけど。。。しかもウムってのは、ヘリウム、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、カリウム、カルシウム、スカンジウム、バナジウム、ガリウムと、ゲルマニウムの前に12個もあるし、後ろにも50個くらいあるんじゃないのか。おっと、バナジウムも健康関連だった。あと、酸素が基本というのは、どこから来たんだろう。生きる基本は呼吸ってことなのかなー。
10.) 「ふーん」:
ぜったい聞き流していると思う。ところで、干支はちゃんと分かるのだろうか? いろはは? 春の七草は? #12.
11.) 「いいの。いいの」:
目を開けて寝るな!! というのは、目を開けて寝るなんて可愛いなー♪ ということだと思ってるの?? おれも、その解釈は絶対間違ってると思うぞ。
12.) 干支いろは春の七草:
「いろは」も怪しいぞ。干支はたぶん大丈夫(^^) 七草は駄目だろう。
おれもスズナ、スズシロ、ゴキョウ…、春、秋とも完全じゃないかも。七福神は大丈夫。ガイはだめだろうな。
七大陸とか、三大漁場三筆・三蹟四書五経出羽三山なんてのも、世の中いろいろあるよなあ。
頂点、双璧、三位、四天王、五本の指、五臓六腑、六根清浄、七星、七転八倒、九死に一生で振出しに。(この項 のりお)




まあ、なんの役にも立たないだろうけど、この際だから
ガイお母さんには惑星の順番を覚えてもらいたいねー