pinあきの巣穴
(佐藤家の日常から26)
yoko
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その後のあきの部屋

一度は母親の強制介入で、部屋からごみを一掃できたあきだが、#(1)無精な父親の血と、大ざっぱな母親のDNAを持つ者の当然の帰結として、3日後には早くも机の上が乱雑になり出し、ものの1週間もしないうちに、物やごみは新天地を求め、床やベットに侵略を始めていった。
そして投げ捨てたパジャマや靴下が、ベッドから半分ずり落ちた掛け布団とともに、日々アバンギャルド芸術運動を支持するようになるにつれ、いつしか部屋の状態は元の木阿弥になっていった。
再三にわたる母親の改善勧告については、受験生という立場を悪用し「掃除する暇なんてないの。それと寒いのに掃除して風邪でも引いたらどうすんの。合格が決まってたら、毎日でも掃除するもん」と、とても推薦合格を狙う受験生とは思えない怠惰で自己中心的、加えて嘘八百な対応を機関銃のようにまくし立てる。
いつもなら往年の富士桜と麒麟児のように#(2)壮絶な突っ張り合戦を繰り広げる母娘だが、ガイも相手が受験生ということで、やや遠慮がちで、突っ張りにいつもの威力はない。あきは、それを見越しているので態度にどこか余裕があるのである。

今年も早々のこと

そうか!ここは父親の出番なのだな —— と私は気がついた。ここは一つガツンと父親の威厳を示さなければいけない。私はあきの部屋に張り紙をして、こう宣言した。
「この張り紙は、あき本人が部屋を掃除し、きちんと片付けるまで無断ではがしてはいけない」
ガイとあき、そしてお姉ちゃんが怒られているだけで、うれしそうな顔を隠しきれないゆーたの視線が張り紙が集中した。

「あきの巣穴」

昔から気仙沼の三蹟と言われた自筆の文字#(3)が、父親の威厳を放っている。とにかく掃除しないかぎりこの四畳半の空間を人様の暮らす「部屋」とは認定せず、ほ乳類ヒト科が棲息する「巣穴」とすることを佐藤家の住人に宣言した。頑丈な前歯を持つあきは、齧歯類のハムスターとかビーバーに似ているので、部屋を「巣穴」としても全く違和感はない。
あきはそんな父親の嫌がらせにも動ぜず、巣穴でエサ、もといせんべいやクッキーなどの三度の飯より好きな「おやつ」をバリボリとむさぼりながら過ごし、時々、迷惑なジプシー勉強#(4)を繰り返しながら、運良く第一志望の高校に滑り込むことができた。
えっ?その後掃除したかって?しました。合格した以上、今まで抑えてきた分、ガイの突っ張りは以前にも増して重く、回転もなめらかで、あきもさすがに降参して、渋々掃除をしたのである。

さっきのこと

しかし。最近またあきの部屋が汚れてきた。そこでさっきあきが登校した後、「あきの巣穴」の張り紙パート2を作製。「勝手にエサを与えないでください」「危険!かみつきます」の文字を添付し、張り出した。さてあきはどう反応するだろうか?

( のりお )

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あずみによる脚註
のりおくんナイス!厳しく口うるさい母親(天然ボケ)と、勝手で理不尽な父親(アバンギャルドな突っ込み)がいるから、あきみたいな子供が育つんだな。いやあ納得。
1.) 部屋からごみを一掃できたあき:
あきの、その恐るべき汚し方は、佐藤家の発掘問題▼を参照してね。
2.) 富士桜と麒麟児のように:
昭和50年代大相撲の名傍役、元関脇富士桜(現中村親方)と元関脇麒麟児(現北陣親方)。突貫小僧富士桜が強烈なぶちかましで突撃すれば、麒麟児は回転の速いツッパリで受けて立つ。どちらも一歩も引かない、その派手な突っ張りあいはファンを大いに湧かせた。正々堂々とした清々しいライバル関係の代名詞として、いまだに語り継がれているのは凄いね。
3.) 気仙沼の三蹟と言われた自筆の文字:
気仙沼市役所職員の千田さんとあずみとのりおくん。本人でも読めないとか、すらすら読み下すのに10年かかると云われる。もちろん悪筆のことですからね。
4.) 迷惑なジプシー勉強:
そのジプシーぶりは、あきの受験勉強大作戦▼ちゃっかりあきの英会話で東京ツアー▼佐藤家の発掘問題▼を参照してね。




掃除というものは、出来ない人は永遠にできないんだよなあ。